「恋愛をしない独身の若者」は格好のスケープゴート

 国は少子化対策に力を入れてきたが、それ以上に足を引っ張っているのが、若い男性たちだ。彼らが恋愛に後ろ向きになってしまったことが最大の問題ということにしてしまえば、すべて解決だ。国は無策の責任を取らなくていいし、「若者の恋愛をサポートします」なんて上っ面の話をしていれば、賃上げや子ども対策という面倒な話に着手しなくて済む。

 実はこれは日本という国がよくやる“お家芸”でもある。『医療危機に「国民のがんばり」で立ち向かう、戦時中と変わらぬ日本の姿』の中で詳しく紹介したが、日本は、政府が社会システムの根本から変えなくてはいけないような問題にに直面した時に、国民の責任に話をすり替えて、「個人のがんばり」で乗り切ろうとする悪い癖がある。

 最近でわかりやすいのは、コロナ対策だ。他の先進国ではほとんど起きていない「医療崩壊」を2年間も大騒ぎしたのは、日本の医療供給システムに根本的な欠陥があるからであることは明白だが、そこには手をつけず、ひたすら個人のせいにした。

「ルールを守らない飲食店が悪い」「渋谷で遊んでいる若者が悪い」という感じで、医療崩壊という国のシステムエラーから国民の目をそらして、ひたすら「この非常時に協力しない身勝手な人間のせい」にして、医療提供体制の見直しなどの根本的な議論は先送りされている。

「若者の恋愛離れ」にも同じ匂いが漂う。

 これから人口減少はさらに拍車がかかる。1年で鳥取県と同じ人口が消えていくので国内経済も加速度的に縮小していく。尻に火がついた時、「こんな状況になるまで放っておいたのは誰だ!」と犯人探しが始まる。

 その時、「恋愛をしない独身の若者」は何度でも格好のスケープゴートにされるだろう。

「日本が衰退したのは、ゲームやアニメばかりを楽しんでデートもしない自分勝手な男が増えたからだ!」「最近の若者は何事にも臆病でダメだ!我々が若い時は女性には当たって砕けろだった!」なんて感じで、おじさんたちも怒りをぶつけやすい。政治家も選挙で叫びやすい。若者はそもそも投票に来ないので、いくらディスっても痛くない。

「若者の恋愛離れ」というインチキ話は、そう遠くない未来に始まる「若者ヘイト」の序章なのかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)