未来実現マーケティングPhoto:PIXTA

多くの人が「マーケティングとは商品を売るためのスキル」と思っているだろう。しかし、カリスママーケターとして知られる神田昌典氏は、むしろ「頑張らずに成果を出すスキルこそがマーケティングだ」と断言する。その理由と、今こそ「マーケティングが求められている」背景とは?
※本記事は神田昌典著『未来実現マーケティング』(PHP研究所)からの抜粋です。

「頑張っても組織が動かない」
そんな人に足りない唯一のもの

 マーケティングとは、商品を売るための広告や調査手法だと思われているが、それは表層的な理解だ。その本質を捉えて再定義すると、マーケティングとは、「必要な価値を、必要な人に届け、必要な変化を起こす仕組みづくり」のことである。

 必要な変化を起こすことが目的であるのだから、自らの人生や社会をより良くしたいという方は、誰でも――経済対策に取り組む官僚も、価値ある研究結果を広げるべき学者も、地域の魅力を発信したい学生も――学ぶべき技術なのだが、悲しいことに、ほとんど浸透していない。

 先日あった、実話を紹介しよう。

 ある企業の幹部が、組織風土の改善でお困りだったので、私はちょっとした工夫をその場で発案したところ、疲れ果てた表情を浮かべながら、彼は答えた。

「それは過去に、何度も頑張った。でも、誰も乗ってこなかったんだ」

 私は、心の中で呟つぶやいた。「人の上に立つ人が、ほんのちょっとでも、マーケティング思考を持っていたらなぁ……」と。

 たとえば、100人の組織内で変化を起こそうとした時――、マーケティング思考を持っているリーダーは、頑張らない。なぜなら100人のうち、大多数の約80人は「変化することが、必要」と頭で理解できても、「変化しないほうが、楽」。だから、何度も説得が繰り返されれば、逆に「変わるもんか!」という反発を、生むことになる。