「なぜ、日本ではユニコーン企業がなかなか出てこないのか?」。この疑問への1つの回答となるのが田所雅之氏の『起業大全―スタートアップを科学する9つのフレームワーク』(ダイヤモンド社)だ。ユニコーンとは、単に評価額1000億円以上の未上場スタートアップではなく、「産業を生み出し、明日の世界を創造する担い手」となる企業のことだ。スタートアップが成功してユニコーンに成長するためには、経営陣が全てのカギを握っている。事業をさらに大きくするためには、「起業家」から「事業家」へと、自らを進化させる必要がある、というのが田所氏のメッセージ。同書のエッセンスを抜粋してお届けしてきた本連載。今回からは特別編として、日本のスタートアップがさらに今後、活性化していくために必要な視点や条件などについて、田所氏の書下ろし記事をお届けする(全7回の予定)。

【日本再生のカギ】日本のスタートアップ業界がかかえる大きな課題とは?Photo: Adobe Stock

日本のスタートアップは10社ある

 2020年7月に『起業大全』を出版した当時は、おそらく日本にはユニコーン企業(評価額1000億円以上の未上場ベンチャー企業)が6社存在していました。

 2020年のスタートアップの資金調達額は、コロナで少し落ち込んだこともあり約5300億円、社数が約2300社でした。当時は6社でしたが、今は以下の10社があると言われています。

 ・Preffered Networks(機械学習など最先端技術の実用化)
 ・スマートニュース(ニュースアプリ)
 ・SmartHR(クラウド人事労務ソフト)
 ・TRIPLE-1(半導体システムの開発)
 ・Spiber(新世代バイオ素材開発)
 ・TBM(プラスチックや紙の代替新素材や資源循環サービス)
 ・クリーンプラネット(新水素エネルギーの実用化研究)
 ・Mobility Technologies(タクシー配車アプリ)
 ・GVE(デジタル通貨プラットフォームの開発)
 ・HIROTSUバイオサイエンス(線虫触覚センサーを利用したがん検査の開発・研究)

 (出典:STARTUP DB「国内スタートアップ評価額ランキング最新版」を基に編集部作成)

『Japan Startup Finance2021』によると、2021年のスタートアップの資金調達額は、約7800億円です。2012年の資金調達額が645億円なので、約10年で12倍になった計算です。

 でも、アメリカでは同期時に16兆円の資金がスタートアップに流れています。日本の約20倍ですね。GDPは日本が約540兆円、アメリカが約2300兆円で4倍程度の開きなので、資金調達額が20倍も違うというのは、大きな差です。

 日本のスタートアップ市場は、まだまだ資金調達額が小さいと思います。日本のスタートアップ市場の適正規模というのは、だいたい2~3兆円ぐらいではないかと考えています。

もし10億円調達できたとして、
20~30人のチームを適正にマネジメントできますか?

 ただ、日本のスタートアップ市場の適正規模が2~3兆円だとして、では、それに見合う数のスタートアップがいるのかどうか、またそれだけのCXO人材(CEO:最高経営責任者、COO:最高経営責任者等)がいるのかというと、そこはまだまだ疑問符がつきます。

起業大全』の中で私が言いたかったことの一つは、やはりこれだけのお金(2~3兆円)をうまく使える人材(事業家)が必要だということです。

 例えば、仮に1社で10億円調達できたとして、そのお金を成長のために適正に使うとすると、20~30人程度を雇用してマネジメントする必要があります。もしもこれが100億円なら、200~300人のチームをマネジメントする必要がある。

 それをいきなりぽっと出の起業家にできますかといったら、できなくはないでしょうが、なかなか大変なチャレンジだと思います。

 日本のスタートアップをめぐるヒト・モノ・カネでいうと、カネを調達できる環境は整ってきているのは確かだと思います。

 一方で、人材の部分、特にCXO人材がまだまだ日本には少ないのかなという印象があります。

起業大全』の出版から2年になりますが、ヒトの部分については、まだまだ課題が山積みなのではないでしょうか。

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役社長
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動する。日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。日本とシリコンバレーのスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めながら、ウェブマーケティング会社ベーシックのCSOも務めた。2017年、スタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。著書に『起業の科学』(日経BP)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『起業大全―スタートアップを科学する9つのフレームワーク』(ダイヤモンド社)等がある。