痩せたい、熟睡したい、賢くなりたい、ストレスに強くなりたい…。人類の生活環境が激変するなかで、現代人はかつてなく多様な悩みを抱えるようになった。本連載では、全米で話題沸騰中、国内では本年3月に発売された書籍『EAT 最高の脳と身体をつくる食事の技術』の内容から、“食に関する最新の知見”にもとづく有益な情報をお伝えしていく。
肝臓は怯えている!
医師でベストセラー著者のアラン・クリスチャンソン博士は、私との会話の中で『クリニックス・イン・ガストロエンテロロジー』に掲載されているデータを示しながら、肝臓の炎症は甲状腺機能に多大な影響を及ぼしうると教えてくれた。
肝臓は、甲状腺ホルモン(をはじめとするさまざまなホルモン)の運搬、代謝、貯蔵、排出に欠かせない存在だ。
博士曰く、「肝臓が甲状腺ホルモンを的確に管理しなかったら、代謝のスピードが下がり、その違いは一日あたり数百キロカロリーに及ぶ」とのことだ。
さらに心配なことに、オーストラリアのシドニー大学ウェストミード・ミレニアム研究所が、「内臓脂肪は肝臓の炎症とインスリン抵抗性に直接的に関連している」と結論づけている。
皮肉にも、肝機能の低下は腹まわりに脂肪が増える要因となり、腹まわりの脂肪が増えれば、肝機能が低下する要因となるのだ。
だからこそ、全身性の炎症全般を軽減させることがとても重要になる。体内で起きている炎症の度合いを知りたい人は、血液中のCRP(C反応性蛋白)レベルがその指標として一般に用いられると覚えておくとよい。
この数値が高いと、心臓病や急性感染症をはじめ、肝機能の低下も疑われる(CRPは肝臓で合成される)。
肝臓に炎症が起きたり、肝機能の低下を招いたりする要因として知っておくべきものをいくつかあげておこう。
アルコールの過剰摂取
これは比較的よく知られている。肝臓はアルコールの代謝の大部分を担う臓器なので、酔った勢いで飲みすぎれば、肝臓をどこかの物陰で泣かせることになる。
炭水化物攻撃
でんぷんや糖は、(炭水化物に並ぶ主要栄養素であるタンパク質や脂肪に比べて)血糖や肝臓グリコーゲンの値をあっという間に上昇させ、肝臓の脂肪貯蔵量を急増させる力を持つ。
炭水化物を大量かつ頻繁に体内に取り込めば、脂肪の蓄積が一気に進みかねない。実際、炭水化物の節制は、非アルコール性脂肪性肝疾患に対するもっとも効果的な治療法のひとつだ。
科学ジャーナル『セル・メタボリズム』に、スウェーデン王立工科大学の研究が掲載されていた。彼らは実験として、肥満で肝臓の脂肪が多い人に炭水化物の比率を下げた(カロリーは比率を下げる前と同じだ!)食事を摂らせた。
それをたった2週間続けただけで、肝臓の脂肪のほか、心血管代謝のさまざまなリスク要因が「急激かつ著しく」減少した。
薬の過剰摂取
肝臓は薬の代謝の最高責任者だ。「薬の副作用」とは、肝臓の働きによって生じる作用だと思えばいい。服用する薬の量は、医師の協力のもとにライフスタイルを見直して、できる限り減らすことを目指してほしい。
肝臓がベストを尽くすことは変わらないが、余計な負担はないほうがうれしいに決まっている。
有害物質
ルイビル大学の調査によると、脂肪肝に関連する環境化学物質は300以上あり、そのほとんどが殺虫剤だという。私たちが日々の生活で触れる大量の有害物質(そのほとんどは人為的につくられたもの)への対処の責任は、ほぼ肝臓が担う。
殺虫剤はそもそも死に至らしめるためのものだが、その対象は小さな有機体(害虫など)だけだ。とはいえ私たち人間も、突き詰めれば小さな有機体(細菌)でできているということが忘れられているように思う。
科学ジャーナル『サイエンティフィック・レポーツ』に、殺虫剤の消費、炎症、腸の損傷に直接的な相関性が見受けられたと記された研究が掲載されていた。
オーガニック食品を、単におしゃれで流行っているだけと思ってはいけない。そういうものを食べることは、肝臓、腸、代謝を守る非常に重要な手段となる。