自立とは? 社会とは?
遊ぶ子どもが投げかける問い
ドキュメンタリー映画監督の重江良樹さんは、2019年から2021年にかけて「子ども夢パーク」を撮影し、映画『ゆめパのじかん』を制作した。この映画は、7月9日(土)よりポレポレ東中野ほか全国の映画館で順次公開される予定だ。重江さんの劇場公開作としては、大阪市西成区の児童館「こどもの里」を題材とした『さとにきたらええやん』(2016年公開)に続く2作目となる。
重江さんは、釜ヶ崎のある西成区にこだわり、在住している。「こどもの里」は、釜ヶ崎地域の中にある。日雇い労働に従事してきた男性たちの高齢化に伴い、西成区の生活保護率は増加した。近年はやや減少に転じているが、2021年3月のデータでは22.4%であった。
「社会には、さまざまな不条理があります。路上生活も生活困窮も生活保護で暮らすことも、根本的にその人のせいではありません。釜ヶ崎と『こどもの里』から、それを学びました」(重江さん)
『さとにきたらええやん』の中では、事件が次々に起きる。事件の一つ一つに、子どもたちと大人たちの抱える困難や課題が反映されている。乗り越え続ける力の根源は、子どもたち自身、そして『こどもの里』という居場所そのものにある。
『ゆめパのじかん』には、穏やかな日常がある。子どもたちは毎日、安心安全と思える場で信頼できる他者に見守られながら、暮らし、遊び、学び、考え、悩み、そして成長していく。そこは、「こどもの里」の子どもたちも共通している。そして撮影を通して、重江さんにはうれしい「想定外」があったという。
「愛情の中で安心安全を実感しながら暮らしている子どもたちが単に遊んでいるだけに見えても、考え工夫し、失敗しながら育っています。子どもたちが持っているすごい力を、再確認しました」(重江さん)
映画のクライマックスは、毎年11月に開催される祭り「こどもゆめ横丁」だ。その日、子どもたちは模擬店を作り、現金で商売をする。売り上げから仕入費用を差し引いて利益を計算し、利益の10%を「税」として納める。2019年の「税収」は、約1万6000円に達した。店構え・商品・売価・最低限のルール・税収の用途は、すべて子どもたちの話し合いで決める。
子どもたちは、まさしく社会を作っている。その様子は、生活保護制度の目的の一つである「自立の助長」そのものにも見える。「今すぐ、こんな社会に住みたい」という欲望と、「こんな社会は作ってこなかった」という反省が、私の心の中に同時に湧き上がる。