映画「Dr.Bala」の中で印象的なシーンがある。2017年にミャンマーで開かれた国際学会の壇上で、大村さんが現地の医師たちと共に、ミャンマーでも大ヒットした長渕剛の「乾杯」を歌っている場面だ。大村さんが歌い出すと、ミャンマー人の医師たちが次々と壇上に駆け上り、最後には肩を組んで合唱する。その映像には、長い年月をかけて培われてきた信頼関係が映し出されていた。
「日本から教えに行くと、『偉い先生』のようなイメージを持たれてしまうことがありますが、それでは近寄りがたいですよね。だから僕は現地の先生たちと一緒にお弁当を食べたり、歌を歌ったり、できるだけ同じ時間を過ごすようにしています」
人付き合いが苦手な
コンプレックスと向き合う
だが、常に自分をさらけ出して人に接しているように見える大村さんが、自然にそうできているわけではないという。「本当はみんなの前で楽しく歌えるような人間じゃないんです」と苦笑いする。
「一人旅に行っても、自分から誰かに話しかけるようなタイプではなくて‥‥。正直、人付き合いは苦手です。でも、海外協力活動はそれでは駄目だと思っています。だから、こうありたいという自分を努力して演じているんです」
今の姿からは想像がつかないが、子どもの頃から団体行動が苦手だったという大村さん。中学校の部活では「個人競技だから」と陸上部を選び、チーム競技にはずっとコンプレックスがあったという。
「チームを作って、一つのことに一丸となって取り組む。そんな人たちにずっと憧れがあるんですよね。でも、僕は全然できない。できないからこそ、海外での活動を通してずっとチャレンジし続けています」
海外協力活動は、「自分のコンプレックスと向き合うチャンスでもある」と大村さんは話す。現地の人たちに受け入れてもらうための努力が、結果的に、自身の“殻”を破ることにもつながった。そして、ミャンマーで身に付けた「教えてもらう」姿勢が、日本の医療現場でも生かされ、医師としてひとまわり成長することができたという。自分の“殻”を破らなければ何もできない、そんなアウェーな環境にあえて身を置くことでこそ、人は成長できるのかもしれない。(つづく)