『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

大人になっても役立つ「大学4年間で学ぶべき一生ものの技術」とは?Photo: Adobe Stock

[質問]
 私は現在大学生ですが、特にこれといったコミュニティに属していません。このことはやはり大学生として好ましくないことなのでしょうか? 閉じこもって勉強ばかりしていては偏屈でコミュニケーション下手になり、この先の就職で(それが研究職であったとしても)苦しむのでしょうか?

 また、大学生のうちに学んでおくべきこととして、経済学や経営学、マーケティングやファイナンスが挙げられることが多いように思います。

 私はなんとなく、このことがまた視野を狭めてしまうのではないかと思えてなりません。「この先生きるのに有利になる学問」という位置付けがなされている気がするからです。私が自分を正当化しようとしてるだけかもしれませんが...

 これらのような、大学生がやるべきこと(特に、より多くのグループに属すべき、人と会うべき、といったことに関して)または学問というトピックに関して、読書猿さんはどんな意見をお持ちか、お聞きすることはできませんでしょうか?

大学生で身につけた「アカデミックスキルズ」は一生ものです

[読書猿の回答]
 大学生のうちに学ぶべきものはアカデミックスキルズ、学術研究の基礎技術です。これは言わば「知識をつくるための方法と態度」であり、手持ちの知識だけでは対処できない場面に遭遇した場合に役立つために一生ものの知的財産となります。

 アカデミックスキルズは技術であると同時に、その技術を自発的に用いる態度を含むので、具体的な問題やテーマについて自分で使ってみないと身につけることは難しい。これが、その機会や資源が揃った大学で身につけるのが最適である理由です。

 勉強をたくさんしたことが原因で人間が偏屈になったり、コミュニケーションが下手になることはありません。あるとすれば、自分では知識を得たつもりでも、幼稚な考えに取りつかれただけである、たとえば次のようなケースでしょう。

 認知バイアスを是正するために開発された合理的コミュニケーション(論文の書き方などの学術コミュニケーションはその一部です)を身に着ける過程で、「正しいコミュニケーション」とそうでないコミュニケーションがあるのだという幼稚な考えに陥り、コミュニケーションの儀礼的側面を取り落としてしまうことはあり得ます。これは人類としては(つまり学知においては)随分前に克服した臆見なので、単純に勉強が足りないということができます。