私たちが生きているのは
「崩壊の時代」
――儒教には、社会哲学的な要素もありますね。
ええ。まさに儒教は社会哲学です。儒教には3000〜5000年の歴史があり、その儒教の経典である『易経』の土台となった知恵はさらに古く、1万5000年もの歴史があります。
儒教と道教は、もっとも根底にある部分が共通しています。そして道教は、地球の理に根ざした伝統という点で、日本の神道と通じるものがあります。
エネルギーの動きである「気」の概念、エネルギーがあらゆるものの中をめぐってどのようにその状態を形成するか、私たち人間を含めた木や草、すべての動物といった生きているシステムが絡み合っていることなど、道教と神道は根本的な部分でとても似ています。
中国は3000〜5000年以上にわたって、興隆と衰退を何度も繰り返していますね。何千年にもわたる歴史観を持つことのメリットは、「ああ、ここ数世紀は大変だった」と言えるほど、辛抱強くいられることではないでしょうか。私が東アジアの文化で素晴らしいと思うのは、このように、歴史を長いスパンで見ている点です。
私たちはだんだんと、外側の世界、そして物質・物理的な世界に、過剰にフォーカスするようになってきています。
外の世界への意識はもちろん重要ではあります。道教はまさに、人間の外の世界を考えよという教えですよね。物理的な確固たる外の世界をよりどころとして、私は何者であるかを深く洞察することができる。物理と精神とを切り離すことはできません。
これは、西洋の文化にはない概念です。しかし、西洋の文化がアジアの文化を支配し、破壊し始めると、アジアの文化は西洋的なものになりました。今、多くの中国人は、自分たちを西洋から切り離さなければならないと感じています。だから習近平氏が支持を集めているのです。
アジアの文化を守るという点では、私も賛成する部分はあります。ただ、西洋と距離を置くといっても、(全面抗争するという)ハードランディングではなく、ソフトランディングであってほしいですが。
インドで生まれた仏教は、中国や日本、東南アジアへ伝わりましたが、大乗仏教や小乗仏教、あらゆる仏教の根底には「末法思想」があります。いずれ「末法の時代」に突入する――。それが今、この崩壊の時代です。危機は時として、必然的に起こるものです。それまでの秩序が力を失うには、崩壊が必要なときもあります。少し視点は違いますが、お釈迦様も同じものを見ていたのです。
私たちが生きているのは、そういう危険な時代なんです。
――本当にその通りですね。ソフトランディングであってほしいです。さて、著書『The Triple Focus』の日本語版(『21世紀の教育』)が先日、出版されました。教育関係者だけでなく、ビジネスパーソンにもおすすめでしょうか。