量子コンピューターの開発競争が激化している。いち早く商用サービスを始め、開発レースの先頭を走る米IBMを猛追するのは、米アマゾン・ドット・コムなどクラウドの3強だ。後発組のアマゾンは、クラウド上で利用可能なハードの種類を増やすほか、自ら量子コンピューターの開発に乗り出すことも宣言した。特集『号砲!量子レース』(全8回)の#4では、米IT大手が先行する量子コンピューターの開発レースを追った。(ダイヤモンド編集部副編集長 大矢博之)
富岳で9000年かかる計算を36マイクロ秒で
“最速マシン”がAWSに翌日デビューの衝撃
「カナダのザナドゥが新型の量子コンピューターで量子超越の実験を行っている」――。
2021年末、米クラウド大手アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のリチャード・モウルズAmazon Braket担当ジェネラルマネージャーに、こんな報告が届いた。Amazon Braketとは、20年8月から始まったAWS上で量子コンピューターが扱えるサービスだ。
そして22年6月1日、英科学誌ネイチャーに1本の論文が掲載された。ザナドゥの光量子コンピューターが、既存のスーパーコンピューターよりも高速で計算する「量子超越」を達成したという内容だった。
そのスピードは驚異的だ。論文によれば、日本が誇るスパコン「富岳」では9000年かかる問題を、ザナドゥの量子コンピューターはわずか36マイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)で計算できたのだという。
業界関係者を驚かせたのは、量子超越を達成したというザナドゥの量子コンピューターの性能だけではない。論文掲載の翌日より、Amazon Braketで実際に“最速マシン”が利用可能になると発表されたからだ。
「われわれのゴールは顧客に最新のテクノロジーを提供することだ。量子超越を達成したハードウエアを、一般の人がクラウド上で試すことができる環境を初めて提供できた」とモウルズ氏は強調する。
なぜAWSはザナドゥのマシンを論文掲載翌日からクラウド上で公開できたのか。