「俯瞰外交」によって安倍氏は米中から必要とされる日本のイメージを世界に与えた。それがあったからこそ、安倍政権下で日米豪印の協力体制の枠組みであるクアッドが創設された。俯瞰外交の成果は大きい。ただ、安倍氏の外交政策にも踏み込み不足の部分があったかもしれない。東南アジアの新興国との関係強化はその一つだ。岸田政権は安倍氏の考えを引き継ぎ、強化すべきだろう。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
各国首脳の弔意に見る
俯瞰外交の成果
7月8日、奈良県で街頭演説を行っていた安倍晋三元首相が銃撃され亡くなった。凶弾に倒れた同氏の志を考えると、さぞ無念だったことだろう。心よりご冥福をお祈りする。
同氏の不慮の死に対し、多くの国のトップから丁寧な弔意が示された。特に、米国は急遽、ブリンケン国務長官を訪日させた。その背景には、安倍氏が推進した「俯瞰外交」がある。
安倍氏が力を注いだ、「自由で開かれたインド太平洋」は、世界の目を当該地域に向けさせた。多くの欧米各国は安倍氏の主張に賛同した。また、インドやフィリピンなどは、中国に毅然と対応する勇気を得ただろう。安倍氏の構想はクアッド(Quad、日米豪印戦略対話)に引き継がれた。俯瞰外交が国際世論にもたらした影響は大きい。
ただ、安倍氏の外交政策にも踏み込み不足の部分があったかもしれない。東南アジアの新興国との関係強化はその一つだ。岸田政権は安倍氏の考えを引き継ぎ、強化すべきだろう。ASEAN地域との関係強化は急務だ。それが、国際世論におけるわが国の発言力向上に決定的インパクトを与えるはずだ。