うまくコミュニケーションできないことからくる孤独感、低い自己肯定感、SNSによる誹謗中傷やバッシングなど、今、生きづらさをかかえる人が増えています。そんな中にあって、毎日を心安らかに、快適に過ごしていくためには、どうすればいいのでしょうか? 発達障害(ADHD)、うつ病など、生きづらさを抱えながらも精神科医として活躍するバク先生は、ツイッターでのつぶやきが共感・絶賛され、今、人気急上昇中。本連載では、バク先生の初の著書『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』(ダイヤモンド社)の中から、生きづらさを解消するための実践的なヒントをご紹介してきました。読者から寄せられたお悩み相談に対して、バク先生が答えるアドバイス編の第4回をお届けします。

【精神科医からのアドバイス】もやもやを心に溜め込まないほうがよいと聞くのですが、どうしたら上手に愚痴がこぼせますか?photo: Adobe Stock

ほとんどの人は、自分の気持ちを
うまく他人に伝えられていない

 皆様、こんにちは。バク@精神科医です。

 この世の中には色々な悩みがあると思います。それでも見方をちょっと変えてみたり、様々な視点を持つことで「そこまで悩まなくても良かったかな?」と思えるようになるかもしれません。

 本連載が、皆様のストレスを少しでも減らして、笑顔やリラックスのためのヒントになれば幸いです。今回のご質問はこちらです。

【質問】もやもやを心の内にため込まないほうがよいと聞くのですが、どうしたら上手に愚痴がこぼせますか? 詳しく話すと重くなって引かれてしまいそうですし、概要だけでは、的外れな返事をされて一層もやもやが増しそうだと思い、なかなか口にできません……。

 なるほど、もやもやした気持ちを心の内にため込まない方がよいのでは? という意見には、私も賛成です。ただ、「溜め込まない」は「他人に愚痴を言う」とイコールではないと思います。割と簡単に「嫌なことがあったら愚痴を言えばいいよ~」と言う人が多いですが、おっしゃる通り今まで愚痴って来なかった人がいざ愚痴をいう!となると意外に難しいものです。

 そもそも、もやもやした気持ちだけでなく、ほとんどの人は自分の気持ちをうまく他人に伝えられていないのではないでしょうか。嬉しいとか感謝の気持ちを抱いても、ほとんど(もしかしたら全人類)が上手に自分の気持ちをそのまま言葉に変換することはできていないと私は思います。

 ましてやイライラしたり、もやもやしたりという負の感情は、冷静さを失わせるものです。冷静さを欠いた感情論は聞く人の心も刺激しやすく、結果として返ってくる返事は的外れになり、さらに「どうしてわかってくれないんだ!」と、新しいもやもやを生みかねません。

自分の心の状態をうまく言語化して、
相手にわかりやすく伝える愚痴は、高度なワザ

 心の状態を言語化することは、自分の状態を相手に伝える中でも一番難しいことだと思います。診察場面で「頭が痛い」と受診に来た人が「どんな頭痛に悩んでいるか?」と言うのを聞き出すだけでも相当難しいです。たとえば、ずーっと痛い? 時々痛い? ズキっと? ギリギリ? 頭全体? 一部?など、色々なたとえを出しても、なかなか患者さんがピタッとくる言葉が見つからなかったりします。そもそも頭が痛すぎて、質問に答える余裕すらないこともあります。

 「自分でも『もやもや』としか表現のしようがない心のイヤな感じ」を的確に言葉にして相手にわかるように伝える、という愚痴という行為は、実は相当高難易度なワザだと思います。

 でも世の中には愚痴を言い合いしてスッキリしている人もいる! そういう人たちは特別国語力が高いのか!?というと、その実そうでもありません。

 喫茶店で原稿を書いているときにふと聞こえてくる奥様方の愚痴大会などを聞いていると、それぞれが好きな愚痴をただひたすら言い合い、お互い特に相手の話を聞かず「腹たつわね~!」と最後だけなんとなく帳尻が合っている雰囲気で終わっていることが多いです。

 相手に自分の苦しさを全て理解してもらい、最適なアドバイスをもらおうとしている愚痴名人には、私はまだ会ったことがありません。多分愚痴マスターになる極意は「好き放題言いっぱなし、聞き流しっぱなし」なのではないでしょうか。

自分のもやもやを心にため込まない方法は、
他人に聞いてもらう以外の方法もある

 質問に戻りましょう。上手に愚痴をこぼすことは難易度が高く、性格にも向き不向きがあるので今から極めようとするのは、やめた方が良いと思います(愚痴マスターは練習しなくても愚痴を上手に吐き出します)。

 自分のもやもやを心にため込まない方法は、言語化して他人に聞いてもらう以外の方法もあることを知ってください。

 人によってはカラオケで歌うことだったり、体を動かすことだったり、虚空に向かって大声で「あいつめー!(以下自主規制)」と叫ぶことだったり、キャベツを延々刻むことだったりします。

 実際「もやもやするなぁ」と私も思うことがありますが、それを具体的に「何がどうなってもやもやするか」を言葉にすることはほぼできません。

 ただ「何かを集中して読む」とか「短時間でも寝ればもやもや度は減る」と自分の中ではわかっているので、私の場合は疲れ果てるまで本やネットで文字を追いかけ、寝るなどの対応をしています。

 質問者さんにも自分なりのもやもや解消方法が1日でも早く見つかることを祈っております。(この記事が新しいもやもやを生んでいないことを切に祈っております……)

バク@精神科医
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー6.6万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。