スマホをながめる男性Photo:PIXTA

スマートフォンゲームなどの長時間利用は「ひきこもり」の原因になる――。メディアなどでは、こんな言説が当たり前のように報じられている。だが、この問題を専門とする筆者は、スマホゲームなどがひきこもりの直接的な原因になった例を見たことがない。それどころか、ひきこもり状態にある本人にとっては、スマホに触れている時間が「社会での苦しみ」を紛らわせる貴重な時間になっている場合もある。「ゲーム・動画=悪」という誤解を解くため、かつてスマホゲームを長時間利用していたひきこもり経験者などの体験談を紹介する。(ジャーナリスト 池上正樹)

「ゲームはひきこもりの原因」
「ひきこもり生活は快適」といった言説に違和感

 スマートフォンでゲームばかりに没頭している我が子が心配で、どう対応したらいいのかわからない――。そんな不安や戸惑いは、筆者が理事を務める当事者団体「ひきこもり家族会」の中でよく聞く相談事の一つだ。

 実際、筆者が全国の家族会に講演などで出かけると、「スマホゲームをもう少し減らせないか」「依存症になっているのではないか」などといった相談を家族から受けることは少なくない。

 スマホにハマり続けることが、子どもをひきこもらせる要因にもなり、そのままひきこもりが長期化してくのではないかと危惧しているのだ。

 スマホのゲームや動画に依存していると、ひきこもり長期化の要因になるのではないかという言説は、一般の人たちの間に広く認識されている。それだけでなく、メディアでもいまだにそんな報道を見かける。

 例えば、最近もラジオ局のエフエム東京(TOKYO FM)が、自社番組をテキスト化したWEB記事(7月10日付け) で、「ひきこもりの人が増えるのは、ひきこもり生活の快適さにある」と主張する番組レギュラー出演者の発言を紹介。「自分がコレクションしてきた好きなゲームやマンガなどがあふれていて、日々の生活を満たすもので囲まれている」ことをひきこもり増加の要因に挙げた。

 しかし、筆者は25年にわたってひきこもり関係の取材を続けているものの、「ゲームやマンガ」が「ひきこもり」につながったという因果関係を示すエビデンスを見たことがない。

 この記事も、明確な根拠が示されているわけではなく、「ゲームやマンガ好きの人はひきこもりになりやすい」という固定観念に基づく認識不足や誤解があるのではないかと思われるのだ。

 東京都が2021年に実施した当事者調査(複数回答可)でも、ひきこもりになった原因の1位は「学校・大学等におけるいじめ等の人間関係」(52.8%)だ。次いで「病気」(39.5%)、「家族関係」(33.8%)、「職場における人間関係(パワハラ・セクハラ等)による離職」(28.7%)と続いている。スマホやゲーム、マンガといった回答は見当たらない。

 そこで次ページ以降では、かつてスマホゲームを長時間利用していたひきこもり経験者などの体験談を紹介する。彼らの声からは、「スマホゲームや動画は悪」「ひきこもり生活は快適」といったイメージとは異なる、当事者のリアルな姿が見えてくる。