「喉から病気を見つける」を
フォローする“診断支援AI”

 ではnodocaは、インフルエンザの診療現場を、どのように変えてくれるのだろう。

 問診、視診等、一通りの診察を終えると、インフルエンザの疑いがある場合はさらにイムノクロマト法と呼ばれる検査を受ける。これは、毛細管現象や抗原抗体反応を利用した迅速検査(診断)の手法の一つで、最近は新型コロナ用の診断キットも登場している。

 細い綿棒を鼻の奥に挿入して粘液(検体)を採取するあの検査は、大部分の大人にとってはまあまあ許容できる(だが不快な)ものだが、子どもに受けさせるのはかわいそうになる。高熱を出し、ただでさえ苦しそうにしているのを押さえつけ、鼻に綿棒を差し込むと、子どもは悲鳴を上げる。場合によっては鼻血がほとばしり、泣きじゃくる。過酷だ。

 しかも、これで確実に診断がつけばいいのだが、「論文では実際の臨床での精度は50%~60%程度といわれています」と、アイリスの執行役員でマーケティングPRの責任者を務める田中大地氏は言う。イムノクロマト法検査の精度は、カタログ値ほど高くないということか。

 その上イムノクロマト法は、結果が出るまでに15分を要する。医療機関での滞在時間が長くなれば、他の患者から疾患をうつされるリスクも高まる。

 だがnodocaなら判定はあっという間に終了し、精度も70%以上(治験)。患者は無理なくくわえられる大きさのカメラを軽く口にくわえるだけ。治験では、空嘔吐(注:オエッとなること)の発生率は全体の1%強だったという。nodocaで咽頭の画像を撮影し、問診情報を入力すると、数秒から数十秒で判定結果が出る。これならインフルエンザの検査時間はかなり短くなるはずだ。

 データは残るので、その後の経過観察にも生かせるし、収集したデータを研究その他の用途に適法に二次利用する仕組を構築することも計画されているらしい。もしも日本全体でこのデータを集めてビッグデータ化できれば、医療のイノベーションにも貢献できるだろう。たとえば2019~20年のシーズンには、年間約2200万人*がインフルエンザで医療機関を受診したと推定されているが、これだけの数の咽頭のデータは世界中どこにも存在しない。

*国立感染症研究所・厚生労働省結核感染症課「今冬のインフルエンザについて (2019/20 シーズン)」 における2017/2018シーズンの推定受診者数(PDF