写真:記者団の質問に答える岸田文雄首相7月31日、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けの見直し検討を明らかにした岸田文雄首相 Photo:JIJI

岸田文雄首相が、新型コロナウイルスの感染法上の位置付けの見直しを検討していると表明した。感染拡大「第7波」の収束を待って、現行の「2類相当」からの引き下げを考えているという。ただ、実は岸田首相はもっと前から検討をしていた。すぐに実行できない現段階で意思表明をしたところに、岸田首相の苦悩が表れている。コロナ対策と経済活動の両立を掲げる岸田首相が、引き下げをためらう事情に迫る。(イトモス研究所所長 小倉健一)

岸田首相がコロナ「2類相当」の
引き下げ検討をついに表明

 いよいよ岸田文雄首相が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付け見直しを検討していると表明した。

 1日当たり20万人以上もの新規感染者が確認される中、医療機関や保健所はパンク状態にある。現在の感染症法上の位置付けは、入院勧告や就業制限など厳しい措置を取ることができる「2類相当」だ。これを季節性インフルエンザと同等の「5類」レベルに変更することにより、行政や医療現場の負担を軽減させたい考えだ。

 筆者は4月時点で首相がその検討を始めたことを報じたが、今回の遅すぎる決断とその方向性には不安も広がっている。

 詳しくは4月9日配信の「ダイヤモンド・オンライン」の拙稿『【独自】コロナ「2類相当→5類」指定に見直しへ、岸田首相が決断』を読んでいただきたいが、昨年秋に就任した岸田首相は、早い時期から新型コロナの感染症法上の扱いについて変更することを考えていた。ただ、昨年末からの感染拡大でタイミングを逸し、今年7月に参議院選挙を控えていたことから「余計な波風は立てない方が良い」(自民党中堅議員)との判断に傾き、その決断を参院選後に先送りすることにした。

 ただ、選挙後にはこれまでの新規感染者数をはるかに上回る「第7波」の猛威に直面した。溢れる患者の対応に追われる医療現場や保健所はもちろん、企業や教育現場にも不安が広がっている。感染状況が落ち着いた静かな環境で冷静な見直し議論を重ねようと考えていたものの、その想定の甘さは否めない。

 首相の周辺でも7月27日には財務省出身の宇波弘貴首相秘書官、同31日には「右腕」である嶋田隆首席首相秘書官の感染が確認された。「早期に感染症法上の位置付けを見直さなければ、社会機能が停滞する」(政府関係者)との危機感が充満している。

 岸田首相は7月31日、首相公邸で記者団に「今後、時期もしっかり見極めながら、(ウイルスの)変異の可能性なども判断した上で、『2類』として規定される項目について丁寧に検討していく」と正式に見直す考えを表明した。ただ、タイミングを逸したことのバツの悪さは隠しきれなかった。

 今、政府内には三つの不安がある。これこそ岸田首相が新型コロナを2類相当から5類へ引き下げることをためらわせる原因となっている。その不安を一つずつ掘り下げていこう。