車椅子を押されて家族と散歩する高齢男性写真はイメージです Photo:PIXTA

お盆に故郷へ帰省して、久しぶりに顔を合わせた親や兄弟と相続の話になり、「何かあってからでは遅いから、遺言を書いておいたほうがいいんじゃないか」といった話になった方もいるのでは。しかし、終活サポートやシニアの人生相談を数多くこなす筆者は「遺言こそが残された家族に遺恨を起こす原因。絶対にやめたほうがいい」と言います。遺言から遺恨が生じるとは、どういうことなのでしょうか。(百寿コンシェルジュ協会理事長、社会福祉士 山崎 宏)

銀行はなぜ「遺言作成」を勧めるのか?

 毎年お盆の時期が近づくと、金融機関が主催する上得意客向けの終活セミナーが盛んになります。今年も地方銀行主催のイベントに潜入してみたところ、例年通り「お子さんたちが『争族』にならぬよう遺言を作成しておきましょう」「お子さんに任意後見を委託しておけば、認知症になっても安心です」という内容でした。

「あなたの死後、お子さんたちの遺産トラブルを回避するためには、あなたの意思を遺言にしたためておくことが不可欠です」

 進行役の行員がそう話すと、参加者の多くはうなずきながら耳を傾け、セミナーが終わるころにはその銀行の遺言信託サービスを検討することになります。遺言信託サービスとは、「遺言作成にかかわるコンサルティング」「遺言書の保管」「遺言の執行」をパッケージにして、100万円前後の手数料と、遺産評価額の0.3%~2.0%の報酬を得るというもの。さらに銀行は、お客の資産状況に応じて、さまざまな金融商材のクロスセルをもくろんでいるわけです。

 遺言の作成や執行をビジネスにしているのは金融機関だけでなく、専門の士業(弁護士・司法書士・税理士)に相談する人も多いでしょう。基本的に富裕層向けのビジネスモデルなので、銀行や専門家に決して安くないお金を喜んで払いたい人は、彼らのオファーを受け入れてもいいのかもしれません。

 ただ、相続する子どもたちの側から考えると、遺言は決して望ましい財産承継策とは言えないのです。なぜ「遺言こそが遺族間に遺恨をもたらす」と言えるのか?その理由を、以下、ケース別に説明します。