ケース2:特定の子どもに多くお金を渡したい場合
気をつけたいのは、特定の子どもに対して、他の子どもよりも多額の財産を譲ってあげたいと親が願った場合です。おそらくこちらが多数派ではないでしょうか。私の行った意識調査結果※では、7割の親が該当しました。
例えばあなたが、諸々の事情を鑑みて、Cにだけ多めに遺産を渡すよう遺言にしたためたとしましょう。すると、Cはこう思います。
「うちは夫婦そろって、何かあるたびにおやじとおふくろの相談相手になってあげたからな。それに、孫を作ったのもうちだけだから、孫のことも考えて自分には多めに残してくれたんだろう」
しかし、AとBはこう考えます。
「どうして末っ子のCだけにいい思いをさせるんだ?納得がいかないよ。待てよ、あいつはいつもおやじとおふくろにこびを売っていたからな。もしかしたらあいつ、自分に有利な遺言を書くようにおやじをそそのかしたんじゃないか……?」
このように、あなたが書いた遺言の内容がどうであれ、必ず誰かが不満を持つというわけです。
こういう言葉があります。「優れたものは常に優越を求め、劣ったものは常に平等を欲する」
名言ですね。つまり遺言とは常に、相続者たちの心にわだかまりを喚起するものなのです。A、B、Cの誰がもっとも親の面倒を見たとか、誰かを親が特にかわいがっていたとか、誰が親に散財させたとか……。そんなことは、それを裏付ける記録が残っていない限り、不毛な議論です。だいたい人間というのは、誰しもが自分に都合良くものを考える生き物です。おまけに、死人に口なしです。
このように、遺言は争いの火種になります。遺言を巡ってほとんどのケースで争いが起こるものなのです。もめない家は本当にごくわずか。もし誰かが死んだ後、子どもたちがもめることを望まないのであれば、一にも二にも遺言を書かないことです。