面倒をかけた子ども、あるいは、これからサポートを頼む子どもには、「ごめんね」と「ありがとう」をきちんと伝えた上で、その分も上乗せした取り分を伝えてあげるのです。そして、元気なうちから渡し始めるのです。それでこそ、お子さん側にも、あなたの老後を支えようという覚悟が定まるのです。

 極端な話、理屈はどうにでもつけられます。いちばん思い入れのある子どもに多く渡すことも簡単です。その子が、他の子よりも親の老後にかかわる面倒な作業をすべてサポートすることにしてしまえばいいのです。これが、他の子からのねたみを回避する方法です。「ま、面倒は全部あいつがやってくれるんだから、しゃあねぇか」と思わせればいいのです。

 そうそう、こういう話をすると必ず質問されることがあります。それは、「自分には子どもに前渡しするような経済的余裕がないのだけれど……」というものです。心配無用です。金額の多寡の問題ではありません。そもそも、子どもが成人していれば、親の懐具合は大体の察しがつくものです。数カ月に一度食事でもして、別れ際に「何かの足しに」と言って2万~3万円程度、いや1万円でもいいから渡してあげる。無理のない範囲でいいのです。それだけでも、子どもとしてはうれしいものです。会うたびにお小遣いをもらえるとしたら感謝もするでしょうし、親のことを考える時間も頻度も増えるはずです。直接会う機会は少なくても、LINEでつながったとすれば、親子間の心理的距離も縮まります。いちばん思い入れのある子どもとは、意識して接触頻度を高める努力をされるようおすすめしておきます。

財産分けとは人事評価のようなモノ

 このように、財産分与というのは死後に遺言が出てきて事の次第が全員に開陳されるよりも、生前に自分の言葉で個別に伝えるほうが、はるかにベターなのです。親にすれば、自分の意思が実現される確率が高まります。子どもたちにすれば、兄弟姉妹間で疑心暗鬼にならずに済む確率が高くなります。

 会社の人事評価面談をイメージしてください。会社が個々の社員をどう評価したかは他者には漏れることなく、昇給や賞与が決まっていきます。子どもが複数いる場合には、これと同様にすればいいのです。ひとりひとり個別に、直接話す機会を持ち、これまでの感謝や謝罪、これから頼みたいことなどを親自身の言葉でキチンと伝えた上で、引き継いでもらうお金のことを話すようにします。そして、できるだけ早いうちから、徐々にお金を先渡ししていきます。もちろん、贈与税なんぞ発生しないように配慮しながら、です。