マンションの管理組合には、管理会社から修繕工事に関するさまざまな見積もりが提出されるが、「マンションの工事はすべて管理会社に頼むべきだ」と考えている理事も少なくない。そこで今回は、「何でも管理会社の言うとおりにしなければならない」という思い込みをなくし、管理組合の主導で修繕工事を行うためのポイントを解説する。(株式会社シーアイピー代表取締役・一級建築士 須藤桂一)
管理委託と修繕工事はセットの契約?
理事会はおかしな思い込みに要注意
マンション管理組合では、マンションの維持管理のために、組合員(区分所有者)から選出された代表者で「理事会」を組織し、理事長をはじめとする理事(役員)が、日常的な維持管理に関する業務を行う。
理事会が担当する業務は、それこそマンションの維持管理に関するすべてのことに及ぶが、たいていのマンションでは管理会社にマンションの管理業務を委託しているので、実際には管理会社とのやりとりが仕事の中心になると言っていいだろう。
理事会は月に一度の定例理事会で、管理会社から、管理費や修繕積立金の納入状況、清掃や管理業務の実施状況、また居住者からのクレームや相談事といったマンション内で起こっている問題についての報告を受け、内容の確認や対処方法などについて話し合う。
その定例理事会の席で、管理会社のフロント担当者から修繕工事の見積もりが提出されることも少なくない。「どこそこの看板が傷んできた」「植栽が枯れてきた」「鉄部がさびてきた」「消防設備点検で指摘事項があった」「機械式駐車場の部品交換が必要」などと不具合箇所を指摘しては、小修繕工事を提案してくるのだ。
それを受けて、「確かに管理会社が指摘するように、マンションのためにはどれも必要な修繕だ。劣化を放置しておくのはよくないし、工事を検討してもいいだろう」という判断が理事会でなされることもあるだろう。修繕の内容によっては、不具合が小さなうちに対処しておくことで、結果として大規模修繕工事の周期の延長につながることもある。
修繕工事の必要性をきちんと判断できる理事会なら問題ないのだが、一方で「マンションの修繕工事は、管理を委託している管理会社に依頼しなければいけない」「管理会社から工事を提案されたら、その工事は必ず実施しなければならない」と思い込んでいる理事会もある。管理委託と修繕工事はセットになっていると勘違いしている理事もいるくらいだ。
そこまで極端ではなくても、「管理会社の見積もりを見ると、一つ一つの発注金額は予算の範囲内に収まっているから」「ほかに多少安い業者がいるとしても、管理会社に頼まないとなると、見積もりの依頼から発注、納品、工事完了確認まで、必要な事務処理をすべて理事会がやらなければならないから面倒だ」などという理由で、結局は管理会社の見積もり通りに工事を行っているという管理組合もよく目にする。