デザインの「負の力」に向き合い、前向きなビジネスに活用するために――『戦争とデザイン』AP/アフロ

企業経営において「デザイン戦略」が重要な意味を持つのは、デザインに人の心を動かす力があるからにほかなりません。しかし、その力がネガティブに活用されたとしたら? 特に、デザインの「負の力」が現れやすいのは、「戦争」という極限状態です。それは、現在進行中の戦争も例外ではありません。今回は、ビジネスにデザインを生かしたいと考える人こそ知っておきたい、デザインの「負の力」に迫る一冊を取り上げます。

戦争とデザインの深い関わり

『戦争とデザイン』は、戦争に使われたデザインに焦点を合わせて、デザインの「負の力」について論じた本です。

 著者は、デザインの歴史に詳しいグラフィックデザイナー。この本を執筆するきっかけになったのは、「プーチンの戦争」(2022年2月のロシアのウクライナ侵攻から始まった戦争を、著者はこう呼びます)で、「Z」がロシア軍のシンボルとして使われるようになったことだそう。最初はただの戦車の識別記号だった文字が、戦争が長期化するにつれて、別の意味を持つようになっていく……。人目を引く「しるし」によって、戦争がデザインされていく様子を、私たちはまさに目撃しているのです。

 戦争には「ナラティブ戦」の側面もあります。対立する陣営それぞれが、人を高揚させ、戦争の正当性や正義を語ろうとするのです。そして、その物語を人々に伝える役割を果たすのがデザインだ――と、著者は説きます。

 それは、今に始まったことではありません。十字軍の昔から、旗、マーク、装束など、戦争にまつわるさまざまなデザインが人を動かし、戦局に影響を与えてきたのです。近代の戦争でも、ヒトラーがデザインを重視したことはあまりに有名です。