ようやく今年に成立した
改正建築物省エネ法

 このような現状を打破すべく、今年6月に改正されたのが“建築物省エネ法”だ。施行は2025年4月からとなるが、この法律の改正によって、住宅ほか全新築建築物に省エネ基準の適合を義務付けることができることとなった。

 住宅では、2025年から2000平方メートル以上の大規模住宅および300~2000平方メートル未満の中規模住宅について、事業者に対して省エネ基準に合致しているかどうかを示す書面の届け出義務が課される。届け出がない場合はもちろん着工できないし、基準に適合していない場合および必要と認められる場合は所管行政庁からの指示・命令が実施される。

 ただし、200平方メートル未満の小規模住宅については、依然として省エネ基準適合の“努力義務”にとどまっている。建築士から建築主への省エネ基準に関する説明義務は課されるものの、適合自体の義務はない。

 その代替として住宅トップランナー制度が2017年から事業者建築主に対して導入されており、その供給する分譲戸建住宅の省エネ性能の向上目標(トップランナー基準)を定めるものとし、断熱性能の確保、効率性の高い建築設備の導入などにより、一層の省エネ性能の向上を誘導することとした。

 特に建売戸建住宅150戸、注文戸建住宅300戸、賃貸アパート1000戸以上を供給する事業者に対しては、年度ごとに目標の達成状況が不十分であるなど、省エネ性能の向上を相当程度行う必要があると認める際は、国土交通大臣は当該事業者に対し、その目標を示して性能の向上を図るべき旨の勧告や事業者の公表、命令(罰則)することができるとされており、事実上、省エネ基準適合を義務化するような状況を作り出している。

 なぜ、このように遠回りの手法で、小規模住宅について省エネ基準の“半義務化”のような立て付けにしたのかと言えば、それは住宅性能の高い住宅が従来の住宅より建築コストが高くなることで「価格が高くなる」からに他ならない。

 例えば一般的な建売住宅では、立地に合わせた適正な(と思われる)販売価格が住宅の売れ行きを左右するのであり、ユーザーは断熱性能の高い住宅に魅力は感じてもコスト面の負担が大きければ購入には至らないという消費面での課題が置き去りにされているので、事業者への供給のハードルを上げて、結果的にユーザーに省エネ住宅を選択させるという状況を作り出そうとしている。

 また、住宅を供給する事業者側にも人員不足で体制が整わないとか工期が間に合わないとか、顧客の予算と釣り合わないなど、リソースや価格の課題を挙げて省エネ性能の高い住宅を積極的に手掛けてこなかった、先送りにしてきたという点も指摘されるべきだろう。