コロナ禍において、着実に成長を続ける音楽配信市場。特にストリーミング配信の売り上げは、2019年の465億円から、2021年は744億円と、音楽配信市場の8割以上をも占めるようになった。音楽のビジネスモデルだけでなく、その聴かれ方や届け方にも大きな変化が生まれている。メジャーなレコード会社や事務所に所属せずとも、TikTokなどのショート動画サービスを経由して再生数を稼ぐ「独立系アーティスト」の存在感と影響力が増してきているのだ。(音楽ジャーナリスト 柴 那典)
音楽ビジネスの生態系に変化
存在感が増す「独立系アーティスト」
ストリーミングサービスの普及によって、音楽ビジネスの生態系に変化が起こっている。
「CDが売れない」と嘆かれたのはもはや昔の話。メジャーなレコード会社や事務所に所属せず、インディペンデントな形で活動しながら、音楽配信を通して着実に収益を得る「独立系アーティスト」が存在感を示すようになってきているのだ。
「2020年以降、我々が『ミドルレイヤー』と位置づけているアーティストの数が増えてきました。本業を続けながら副収入として稼いでいるようなタイプの人から、月に数十万円の収益を得て音楽だけで生計を立てていけるような人たちまで。そういった『ミドルレイヤー』のアカウントの数が伸びています」
こう語るのは、音楽配信ディストリビューションサービス「TuneCore Japan」を運営するチューンコアジャパンの代表取締役・野田威一郎氏。TuneCore Japanは、2012年に開始され、アーティストが自らの楽曲をApple MusicやSpotify、LINE MUSICなどの大手ストリーミングサービスで配信できるサービスだ。登録料を支払えば、誰でも手軽に音楽を配信できるのが特徴で、再生回数に応じた収益は100%還元される。
コロナ禍で音楽業界が大きな打撃を受けた2020年と2021年においても、TuneCore Japanは利用者が増え、右肩上がりの成長を見せている。2021年のアーティストやレーベルへの還元額は、前年比137%となる98億円。2019年の42億円からは2年で倍以上となる伸びを示した。
その背景には、音楽配信市場の着実な成長がある。
特にストリーミング配信の売り上げは、2019年の465億円から、2020年は589億円、2021年は744億円と、好調に推移。音楽配信市場の8割以上をも占めるようになった。
「(TuneCore Japanの成長は)ストリーミング市場が伸びていることは要因として大きいですね。CDと違って、ストリーミングは、聴かれ続けることで継続的な収益源になっていく。1曲当たりの再生単価が上がっているわけではないのですが、数を出し続けることによって再生数が積み上がり、中長期的にはもうかる、というモデルになってきています。それによって、インディペンデントアーティスト全体の底上げができているというのは、すごく良い傾向なのではないでしょうか」
こうしたビジネスモデルの変化によって、国内の音楽のトレンドにも変化が生まれている。