フリーのBGM素材として配布し
権利を持ってストリーミングサービスで配信

 TuneCore Japanを通じて配信されたヒット曲の代表としては、2022年にストリーミング累計3億回再生を突破した瑛人の「香水」が挙げられる。が、「香水」のように、メディアをにぎわす巨大で偶発的なヒットの出現はごくまれで、実際に起こっていることは、むしろさまざまなジャンルのアーティストが、着実にリスナーを増やしてきたことによる「音楽シーンの多様化」であると野田氏は指摘する。

「ここ2年のうちの特徴としていえるのは、シンガーソングライターなどJ-POPの主流のジャンルよりも、むしろ、ヒップホップやボカロ系のように、今まではあまりヒットに結びつかなかったジャンルのヒットが増えていることです」

 こうしたヒットが生まれるきっかけとして大きいのが、TikTokなどのショート動画サービスだ。

「特に若い世代では、TikTokなどのショート動画をきっかけに音楽に接する機会が増えてきています。“踊ってみた”のBGMに使われたりすることで、知るきっかけになることも多いですね」(野田氏)

 たとえば、2021年にTikTokでもっとも再生された楽曲「グッバイ宣言」を手がけたボカロP(「VOCALOID」などの音声合成ソフトを活用して楽曲を制作する人)のChinozo、「Blue Spring」がTikTok週間ランキングで6週連続1位となったラッパーの心之助など、メディア露出はなくとも無名な状態からバズを生む、独立系アーティストが増えてきた。

 さらに新しい動きとして挙げられるのが、インストゥルメンタル(歌の入らない、楽器の演奏のみの楽曲)のアーティストの躍進だ。

 TuneCore Japanが発表した「TuneCore Japan MUSIC STATS 2021」によると、ジャンルのトレンドとしては、1位の「ヒップホップ/ラップ」、2位の「J-POP」に続き、3位が「インストゥルメンタル」。インストゥルメンタルが5位の「ロック」や8位の「R&B/Soul」を上回っている。ボーカルの入っていない音楽がヒットチャートをにぎわす例はあまりないが、独立系アーティストによるインストゥルメンタル楽曲は、着実に再生数を増やしているようだ。

「インストゥルメンタルの楽曲は、主にBGMとして再生される傾向があります。こうしたタイプの曲は、よほど好きな人ではないとCDでわざわざ買うということにはならなかったと思うのですが、ストリーミングであれば聴いていたい、という人も多いようです」と野田氏。

 こうしたインストゥルメンタルのアーティストの中には、今の時代ならではの手段で認知を広げ、成功を得ているタイプもいる。

「最近増えているのは、フリーのBGM素材を作っている音楽家さんですね。インストゥルメンタルの曲を作って、YouTubeやTikTok上で無料で使えるフリーのBGM素材として、配布しています。今度はその曲を、きっちりと権利を持って、TuneCore Japanなどを使ってストリーミングサービスで配信している。そうすると、たとえば有名なYouTuberがその曲をBGMとして使うことで認知度が上がり、それをきっかけに、ストリーミングサービスで楽曲自体のリスナーが増えていくんです。中には1カ月に再生数が数百万回を超えるような曲もあります。メジャーレーベルに所属しているアーティストよりも稼いでいる音楽家もざらにいます」

 こうした形で成功を収めている音楽家としては、たとえば「しゃろう」が挙げられる。2014年から会社員をしながら、フリーBGM素材の制作者として活動を開始し、2022年からは自身のYouTubeチャンネルにて配信。「2:23AM」「しゅわしゅわハニーレモン350ml」といった楽曲が、YouTuberの動画や生配信、TikTokのBGMをきっかけに広まっていった。

 海外からの収益も伸びている。