『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が20万部を突破! 本書には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せ、ビジネスマンから大学生まで多くの人がSNSで勉強法を公開するなど、話題になっています。
この連載では、著者の読書猿さんが「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に回答。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

「この先日本で生きることに悲観的な気持ちになってしまう」悩みへのすごい回答Photo: Adobe Stock

[質問]
 幅広い知識をお持ちと言いますか、物事を多角的に見たり考えたり出来る方だなと尊敬しています。

 そこで質問なのですが、様々な情報を見知って、故に将来に悲観的にはなりませんか?

 私の見方が偏っているのかもしれませんが、正直、この先の日本で暮らすこと、自分の子どもを育て、その子どもが健やかに暮らせるかどうか、不安でなりません。

 漠然とですが保守的というか時代に合わせて変化しにくく、発展が見えない、または発展させるような人の足を引っ張る…出る杭打っていると感じるのです。

 知れば知るほど不安になるのですが、読書猿さんのような知識豊富な方は嘆いたりはなさらないのでしょうか?

未来への恐怖は少しずつでも減らすことができると信じています

[読書猿の回答]
 グラムシなら「認識においては悲観主義、意志においては楽観主義であれ」というところですが、そんな境地には達しておらず、根っからの恐がりであるせいか、私は知らない/分からない方が怖いです。

 本当に自分にローカルな話で恐縮ですが、子どもの頃、お化けが怖くて仕方ありませんでした。「こんな訳の分からんものがいたらどうしよう」と思ってたらしく、民俗学の本を読んで「ある意味、いて当然」と思うと不思議と怖くなくなりました。

 認識した結果が自分の嗜好や正義感に反するものであっても(これは知ることの本質上避けられません)、知らない/分からない方の不安/恐怖が勝るので、知る方が自分の感情生活を改善するようです。といっても分かりが悪いので、多方面に不安や恐怖の種はたくさん残っているのですが。

 そして認識に関して、私はかなり楽観的なスタンスをとっていると思います。認識・知識は可能かどうかを思い悩む代わりに、むしろ認識・知識は不可避だと思っているからです。もちろん現時点での個々の知識は必ずしも正しい訳ではないのですが、それでも認識は避けられない、知ることは止まらない。

 であれば自分の不安/恐怖自体は少しずつでも減っていくと期待できると。

 社会について同じくらい楽観的であればなお良いのですが、目立って悪化する諸問題が山積する一方で、私は人心が悪化しているとは考えていません。つまり適応しなければならない環境の変化で大方説明できる範囲だと踏んでいる訳です。

「時代の流れ」というものは、きっと無数の原因と結果の流れの束です。我々の理解を超え、更に抵抗し難く我々を押し流しますが、それは我々一人ひとりを因果の流れの一欠片としてです。我々は無力であるどころか、時代の流れの原動力たる一片です。

 自分の期待するような未来は到来しないと信じる悲観主義者として、しかし知ることが可能な/知識が更新され蓄積され得る宇宙に生まれ落ちたと信じる楽観主義者として、キケロの言葉を贈ります。

 Ratio quasi quaedam lux lumenque vitae
 理性は人生のいわば光、光明のようなもの