たとえば何か問題が起きて、部下たちがぶるぶると震えているようなときもあるが、それは彼らの失敗や挫折の経験が少ないからだ。挫折や失敗が多いと、過去に経験したものに比べたら、それほどたいした問題ではないと思えるのである。

 つまり、リーダーこそ挫折や失敗を数多く経験しておく必要があるということだ。

 実際、強い経営者たちを見ていると、若い頃にとんでもない挫折を経験していることが多い。

 私も、見込みのある部下にはできるだけ若いうちに一つの会社の経営を任せるようにしている。場合によっては失敗して数十億円規模の損失が出ることもあるが、それくらいの失敗は許す覚悟でいる。そうやって失敗を経験しながら、経営手腕や人間的な力量を養っていくことで、強い経営者が育っていくのだ。

 本当に強い人間というのは、心にしなやかなバネを持っているものである。

 たとえ失敗しても、そこから何度でも立ち上がることのできるバネだ。それは挫折の数と深さから生み出されるのである。

 君が本当に強い人間になりたいのなら、若いうちに何度もチャレンジして、失敗や挫折をたくさん経験しておこう。

 失敗から謙虚に学び、二度と同じ過ちを繰り返さないと思うことが大事だ。

困難なときこそ、人は成長する

 今、世界はコロナ禍という困難な時期を迎えている。

 しかし、困難は必ず解決策を連れてくると私は信じている。困難があれば、解決策もあるはずだ。だから、その困難から逃げずにしっかりと向き合い、解決策を見つけ出すことが大事なのである。

 私は1973年に会社を創業して以来、金融恐慌やオイルショック、リーマンショックなど、10年に一度くらい大きな困難にぶつかってきた。

 創業して日が浅い頃には不渡り手形(支払うはずの相手が支払えなくなった手形)をつかまされて経営が行き詰まり、身投げしようと思ったこともある。

 京都の保津峡渓谷というところまで行き、川に飛び込むつもりでいたが、川の上に突き出た高い岩を眺めているうちに恐ろしくなってきた。しばらくその場で葛藤した。そのうち、自分を信頼してついてきてくれた仲間の顔が浮かんできた。そして死ぬ気でもう一度頑張ってみようと気持ちを奮い立たせ、なんとかその後の危機を乗り切ったのである。

 それを含めて3回ほど不渡り手形をつかまされ、まさに「会社がつぶれる」という困難にも直面してきた。しかし、その3回の経験があったからこそ、むしろここまで来られたと思っている。