こうした出来事を機に、これ以上不渡り手形をつかまされることのないよう取引先を見直し、顧客をすべて優良企業に絞るという方針を徹底させることにしたのだ。これは我が社の経営体質の強化につながることになった。

 高い授業料を払うことにはなったが、すべて順風満帆にいっていたら、会社はここまで大きくなっていなかったはずだ。大きな困難の後にこそ、組織も従業員も大きく成長したのである。

 日本電産の本社の一階には、今も創業期に建てたプレハブ建屋が保存されている。

 そこには「主契約死亡保険金額 8000万円」と記載された古い生命保険証もある。これを銀行に担保として差し出して、資金を借りたのだ。

 私は今でも辛くなったときには必ずそこに行き、創業時の苦しみや死を覚悟したときの恐怖を思い出す。そして「あのときに比べたら、今の苦しみなどたいしたことはない」と思い直して、元気を取り戻すのだ。

困難や逆境こそ、飛躍のチャンス

 私はもともと心配性で、臆病な性格である。

 困難にぶち当たったときは、それこそ夜も眠れないほど悩み、考え抜く。それでもなお会社がつぶれるのではないかと恐怖に震え、悶え苦しむ。

 しかし、創業した経営者は皆こうした辛い思いを経験してきている。会社を興し、大きくしていくということは、それだけ大変なことなのだ。

 激しい競争を勝ち残ってきた経営者に共通しているのは、苦しいことに耐え、逆境や困難から逃げずにやってきたということだ。困難に向き合うという経験は、確実にその人の血や肉となり、大きく成長させてくれるのである。

 私は常に「先憂後楽」という言葉をモットーにしている。先に苦労や困難を経験しておけばおくほど、その後にやってくる楽しみは大きくなるという意味の言葉だと私なりに解釈しているが、先に苦労しておけば、苦労が報われた分、楽しみも大きくなるのである。

 困難や逆境こそ、飛躍のチャンスである。

 コロナ禍の後、この社会は大きく変わっていくはずだ。そのときに勝つのは、自分の力を信じて真剣に勝負している人である。

 今、必死で頑張っていれば大きな実力がつく。そして必ず大きく成長する。

 苦労が大きければ大きいほど、その後にやってくる喜びもまた大きいのである。