自己防衛的な心理メカニズムによって、問題解決能力が低くなる

 うつ傾向の強い人は、そのような認知傾向を身に付けているために、過去を振り返ると、思い出すエピソードはネガティブなものが多くなる。そうした出来事の詳細を思い出すと、嫌な気分になり、ますますうつ的になってしまう。

うつと記憶力の意外な密接関係、うつになると「問題解決力が低下」する理由榎本博明『なぜイヤな記憶は消えないのか』(角川新書)

 そのため、そうなるのを防ぐために具体的な詳細を思い出さないようにする、つまり記憶を具体的に検索できないようにぼやかすのではないかと考えられている。うつ傾向の強い人の記憶がぼやけているのは、さらなる気分の落ち込みを防ぐための自己防衛的な心理メカニズムなのである。

 それによって気分の落ち込みを防ぐことができるものの、具体的なエピソードを思い出すことができないために、過去のエピソードを現在の問題解決に生かすことができない。そこで、仕事面や人間関係面での問題解決に支障が出やすくなってしまう。

 うつ傾向の強い人は、問題解決能力が低いと言われるのには、このような事情があるわけだ。

 つまり、問題解決能力を高めようと思うなら、うつ的な傾向を何とか改善する必要がある。いくら仕事そのものの知識やスキルを磨いても、心の習性へのケアがうまくできていないと、なかなか成果を出していけないだろう。