東急池上線が10月6日に開業100周年を迎えた。東急各路線が時代とともにその姿を大きく変える中、経営危機や詐欺師同然の人物による買い占めなどの苦難を乗り越え、今も「都心のローカル線」として、変わることなく走り続ける100年の歴史とは。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
池上本門寺への参拝客輸送を
目的に計画された池上線
五反田駅と蒲田駅を結ぶ東急池上線。全長10.9キロの短区間を3両編成の電車がコトコト走る、東京都心の鉄道とは思えないのどかな路線である。そんな池上線が10月6日で開業100周年を迎えた。
今年は東急電鉄100周年でもあるが、池上線が最初の路線だったわけではない。100年前に設立された東急の前身、目黒蒲田電鉄が開業したのは、古い名前で言えば目蒲線、現在の目黒線、東急多摩川線であり、池上線は1934年に同社に買収された池上電気鉄道という会社が建設した路線であった。
池上線は大田区池上にある日蓮宗の寺院「池上本門寺(長栄山本門寺)」の参詣客輸送を当て込んで計画された路線である。江戸時代から近郊の行楽地として人気があり、特に日蓮聖人の命日にあわせて毎年10月11日から13日にかけて行われる「お会式」には多くの人が訪れる。
1905年の新聞を見ると、京浜電気鉄道(現在の京急電鉄)がお会式のために終夜運転を行ったとの記録があり、また関東大震災後初めて行われた1924年には市電(路面電車)、省電(山手線など)でも終夜運転が行われた。池上線の開業まで本門寺の最寄駅は大森、蒲田だった。直線距離で2キロ以上離れていたが、それでも列車は超満員で、乗り切れなかった人は品川から歩いて向かったという。