計算を終えたD社労士は次のことを指摘した。

「Aさんの月給を時給換算すると1000円になります。これは東京都の地域別最低賃金(令和4年10月1日より1072円)より低い額なので、最低賃金額以上の賃上げが必要です」

<最低賃金とは?>
〇 最低賃金法の定めにより、使用者(企業)が労働者に支払う賃金の最低賃金額が決まっている
〇 最低賃金は法人、個人事業主問わずすべての使用者と、年齢や雇用形態(正社員・パート・アルバイトなど)に関係なくすべての労働者に適用される
〇 最低賃金には、地域別最低賃金と特定産業別最低賃金の2つがあり、両方とも都道府県によって最低賃金額が違う(甲社の場合は地域別最低賃金を適用する)
〇 最低賃金額は時給で設定されている
〇 企業内に複数の事業所がある場合、労働者が実際に勤務している勤務地の都道府県最低賃金が適用される


参考:厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧

 D社労士の指摘を受けたC所長は、意外そうな顔をした。

「A君の賃金は、ウチの本社である北海道の最低賃金(令和4年10月2日より920円)と比較するのではないですか?」
「本社の所在地ではなく、Aさんの勤務地である東京都の最低賃金と比較します」
「そうですか。するとA君の給料は10月分から最低でも1072円×160時間=17万1520円以上にしなければいけませんね」
「それだけではありません。Aさんにはさかのぼってこれまでの最低賃金との差額分も支払う必要があります」

〇 企業と労働者が最低賃金額未満の賃金で労働契約を結んだ場合、法律違反として無効になり、強制的に「最低賃金額と同じ額で同意した」扱いになる(最低賃金法第4条)
〇 従って、会社が最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合は、最低賃金-会社が支払った賃金の差額を労働者に支払う必要がある
〇 未払い賃金に対する時効は次のようになる
・令和2年4月1日以前に支払期日を迎える場合……2年
・令和2年4月1日以降に支払期日を迎える場合……3年
・退職金……支払い期日に関係なく5年
〇 地域別最低賃金額未満の賃金しか支払っていない場合、最低賃金法違反として50万円以下の罰金になる可能性がある(最低賃金法第40条)


参考:厚生労働省広島労働局 未払い賃金が請求できる期間が延長されます