中間管理職は組織風土改革のカギ
「聞けるファシリテーター」になれ

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入山 多様性を考える際、そこでは必ず、自分と違う意見が来ます。むしろ来なければおかしい。そうした反論に対し、「攻撃された」とか「否定された」とか思わずに、ある程度それを受け入れられるかどうかというのが、ものすごく大事だと思うんです。

 日本企業の組織風土改革で、これからカギを握るのは中間管理職だと僕は思っているのですが、管理の仕事というのはこれからはAIがやってくれるので、部下を管理する必要はなくなるんですね。でも管理職的な仕事が必要ないかというと、そんなことはなくて、管理職の人はファシリテーションになる必要があります。

 では、ファシリテーターの仕事は何かというと、「聞くこと」です。絶対に自分が一方的にしゃべってはいけない。よくあることなのですが、会議で部長や課長が8割くらいずっと話しているというのは、最悪です。多様な人の持つ「知」と「知」が組み合わさって生まれるのがイノベーションなのに、管理職が1人でしゃべっていたら意味がありません。部長や課長はうなずくだけでいいんですよ。

 日本語にはマジカルワードがあって、部長や課長は「なるほど」と言いさえすればいいのです(笑)。メディアやイベントの場で多様な人と話す機会をいただくのですが、正直なところ、時々、「この人は何を言っているんだろう」と思うこともあります。でも、一言「なるほどね」と言うと、「入山先生が同意してくれている」と、いい意味で勘違いしてくれて、さらに話してくれるようになり、とてもいい雰囲気になって、場に活気が生まれるんですね。

 なるほど、なるほど、それで、あなたはどう思う? そちらのあなたはどう思う? と回していけば議論が盛り上がって、おもしろい意見やアイデアが生まれやすくなる。「なるほど」を活用すれば、どうにかなるんです(笑)。

白坂 私も同じようなことを言っています(笑)。おっしゃるように、何か意見が出たときに、否定してはいけませんね。一方で、「反応しない」というのも良くない。「いいね」とは言いづらいことでも、反応しなくてはいけないときに、私は「そうそう」「あるある」という言葉遣いをしています。

入山 あと、うなずくとかですね。別に肯定しているわけではないけれど、それでも全然構わないわけですよね。とにかく管理職の人は、一方的に話さない、否定しない、反応する。これが、管理職の人たちにとって、多様性を生む組織風土づくりの第一歩ともいえます。

――最後に、これまでのお話を踏まえ、組織が進化するために必要な条件とは何か、一言ずついただけますでしょうか。

入山 良い状況になってきたなと思うのは、日本のスタートアップ企業の30代ぐらいの社員は、大企業よりも給与が高くなり始めているんです。今までは、ベンチャーは「金はないけど夢はある」という世界でしたが、何と、「金もあって夢もある」世界になりだした。そうなると、大企業から優秀な人材が抜けて、スタートアップへと流れていく。皆、白坂先生のSynspectiveのようなベンチャーへこぞって転職していく。

 そのような状況に大企業は危機意識を持ち、長期を見据えて、企業やリーダーが意思決定をして、積極的に未来をつくっていかなければなりません。大企業のほうがやはり圧倒的にリソースはあるので、あとは実行するだけです。大企業はぜひ、企業全体を変えて、あるいは、1人ひとりの社員も受け身ではなく能動的に手を挙げて、どんどん前に進むことを考えてほしいと思います。

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白坂 これまでお話ししたような全体的な話ももちろん大切で、大きなところを変えていかなくてはならないのですが、個人でもできることはたくさんあるはずです。

 特に入山先生が「意思決定力」と言われたことに、とても感銘を受けました。というのも、私はもともとエンジニアで、設計をしていました。設計とは結局、「決めること」なんです。まず、設計のたたき台をつくるわけですが、とりあえず何か決めないと、誰も何も言ってくれない。何もないまま「どうですか?」とほかの人に聞いても、ほとんど誰からも意見は出ませんし、当然、進めることはできません。でも、「自分がこうやりたい」とか「こうします」と意思を伝えた瞬間に、「それはこうだ」「あれはこうだ」と意見が出てくるようになる。

 これまで「待ち」だった人もたくさんいると思うのですが、いろいろなことに対して、決めていく。意思決定していく。もちろん、決めたら反論も出てくるでしょう。それに対して、拒絶するのではなく、受け止めながら、より良くしていく。

 ですから、狭くてもいいので、自分が担当している範囲で「どんどん決めていく」という経験をたくさんする。それはきっと、自分や組織が変わるきっかけになるはずです。そのことを今回、入山先生との対談で学ばせていただきました。

――入山先生、白坂先生、ありがとうございました。