過去の成功経験があると
固定観念で縛られてしまう

白坂 「あなた(上司)がダメになったと思う必要はありません。時代や環境が変わったんです。皆さんが評価された時代と今の時代は、明らかに違うのですから、周りが違うのに、やることが同じ、ということのほうがおかしい。変えることが正しいんですよ」と。

2人

 そうして別の評価軸で評価された人たちが、組織の上へ上がってくるようになれば、少しずつ企業風土や企業文化も変わっていくのではと、期待しています。

入山 日本の評価というのは、だいたい「成功(達成)」か「失敗(未達)」かという二択でしか見ませんよね。その期の成績を5段階で評価するので、紋切り型になる。これを続けている限り、失敗したら、皆、失点になるので、わざわざ「知の探索」的なことはやらなくなります。白坂先生が今、ご指摘されたように、過去の成功体験をいかに脱ぎ捨てるが大事なんです。

 津田塾大学の現役の学生が、「アイフォーミー」という女性向けの衣類をつくるベンチャーを興したんです。すると、先輩や成功している起業家から「そんなので大丈夫なのか」「もうかるのか」「マネタイズできるのか」と、ひんぱんに言われるので、不安になってきたと、僕に相談に来たんですね。

 彼女は素晴らしいことをしていて、彼女の世代よりも、さらにもっと若い人たちに受けるビジネスなので、30代、40代の人の話はあまり参考にならないと思うんです。確かに、経験を積んでわかることもあるので経験値は大事なのですが、その一方で、成功の経験というのは固定観念に縛られてしまいます。

 経営学でも、人は認知に限界があるので、「自分の見ている世界だけが本当の世界ではない」と認識し、いかに認知を広げていくかが重要であることを説いています。

 ある程度成功した起業家は、「自分の見ている世界が正しい」と思い込んでしまう。だから「知の探索」的な活動をしなくなってしまう。でも、失敗した人は、「世界はもっと広かった」ということに気づいて、失敗を「学習の機会」だと捉え、探索を続けている人が多い。

 そのベンチャーの女性には、あなたは今、成功している人たちからアドバイスをもらう必要はありませんよ、もちろん、契約などの細かいテクニックは学べばいいけれど、やりたいことや、会社の思想は、絶対に影響を受けないほうがいい、このように助言しました。いろいろと言ってくる人がいれば、心の中で舌を出していろと(笑)。むしろ、あなたより年下の子から学びなさいと。