Photo:EPA=JIJI
世界のプラント・エンジニアリング史上でも、あり得ない規模の大惨事である。
1月16日に、北アフリカにあるアルジェリアの内陸部の天然ガス施設で起きたイスラム武装勢力による人質事件で、エンジニアリング専業大手の日揮の国内外のスタッフが10人以上死亡した。
皮肉にも、今回の事件を通じて、普段われわれがあまり気に留めることのなかった海外に軸足を置くプラント・エンジニアリングの仕事に注目が集まった。そしてその仕事は困難で、リスクを伴うものであることも如実に示された。
例えば、LNG(液化天然ガス)プラントの心臓部「中核装置」(地中から掘り出した天然ガスをマイナス162度で液化・圧縮する設備)を手がけられる企業は世界に五つしかない。日本の日揮と千代田化工建設、米国のベクテルとKBR、フランスのテクニップだ。扱える企業が限定されるために、資源国から声がかかるのである。
また、資源の多くは政情不安定な国々に眠ることが多く、技術を持つ企業は、必然的にそのような地域が“仕事場”となる。そして、エンジニアリング会社は、砂漠の真ん中や、ジャングルの奥地で、原野を開拓して街を造成することから始める。そうやって、最終的には巨大生産設備を立ち上げる。
「プラントの建設ばかりではなく、現地人の技術者教育などを通して資源国の発展に貢献してきたのがエンジニアリング会社だ。今も誇りに思っている」(日揮のOB)
日揮にとって、アルジェリアは縁の深い国である。1969年の「アルズー製油所」の建設プロジェクトは、過酷な環境下で幾多の困難に直面し、多額の損失を出して会社がつぶれかけた。それでも、設備を完成させて同国政府の信頼を勝ち得たことが、後の大型受注へとつながり、日揮は発展の礎を築く。最初に調査で接点ができて以来、45年以上の関係がある。
翻って現在、日揮は2011年度の連結決算で、売上高5569億円、営業利益670億円、純利益391億円と、過去最高益を出した。長い年月をかけて、体系化した独自のリスク管理手法により、実績と信頼を積み重ねてきた。