22年のノーベル経済学賞は、ダイアモンド氏、ディビック氏、バーナンキ氏が受賞した。経済学者の安田洋祐氏が、3人が受賞に至った理由を、功績と併せて分かりやすく解説する。受賞理由が書かれたリポートを読むと、選考基準がわずかに違えば日本人の清滝信宏氏の受賞もあり得たことが分かる。清滝氏の今後の受賞の可能性は残されているのだろうか。さらに、日本での知名度からか、とかくバーナンキ氏に注目が集まるが、実は主役は同時に受賞したダイアモンド氏であるという。
分野のパイオニアと実証研究に受賞
予想は外れたが教科書通りの選考
22年のノーベル経済学賞は、ベン・バーナンキ氏、ダグラス・ダイアモンド氏、フィリップ・ディビッグ氏の3人が受賞した。
私と坂井豊貴氏が行ったノーベル経済学賞予想緊急対談【後編】では、坂井氏が「マクロ経済学」「金融」という“分野”ではピタリと的中させた。ただし、この分野は最近受賞がなかったので、他にも予想していた人もいたかもしれない。
想定外だったのは、受賞者の顔ぶれだ。ダイアモンド氏とディビッグ氏、バーナンキ氏の研究はすでに40年近くたっており、近年の傾向から受賞の可能性は低いと考えていた。
とはいえ、対談で伝えたノーベル経済学賞選考の特徴は、今年の選考でもはっきりと出ている。順に説明しよう。
まずは、「分野のパイオニア」という特徴だ。ダイアモンド氏とディビッグ氏は、金融とりわけ銀行業の極めて重要な側面を、当時最先端の手法であった情報の経済学やゲーム理論のツールを使って見事に解き明かした。詳細は次ページで説明するが、シンプルな理論を通じて、当時誰も明確に指摘していなかった真理の一面を明らかにしている。まさにパイオニアの中のパイオニアと言える存在だ。
また、「実証研究への受賞が増えていること」も挙げられる。昨年は労働経済学への実証的貢献でデビッド・カード氏が、3年前には開発経済学で優れた実証研究を多く生み出した3人が受賞している。この傾向通り、今年の受賞理由を選考委員が解説したScientific Backgroundでも、金融機関の破綻が1930年代の世界恐慌を長引かせたことを明らかにしたバーナンキ氏の実証研究が高く評価されている。
さらに、近年は研究成果だけではなく、「現実への政策的応用を踏まえて貢献と見なす傾向」がある。
例えば、20年の受賞分野であるオークション理論は世界各国の電波オークションの設計に使われ、19年の開発経済学の知見は新興国を中心に現実の公衆衛生に活用されている。
今年受賞したバーナンキ氏は、学者として論文を書くだけではなく、アメリカの中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)の議長も務めた実務家だ。リーマン・ショック時に最も重要な職責にいた当事者として、自身の学術研究を政策的に応用し、金融危機の拡大や長期化を食い止めた点も貢献に含まれている。
以上のように、今年のノーベル経済学賞は、分野のパイオニアと優れた実証研究、さらには現実への応用という、まさに教科書通りの人選だったわけだ。
次ページでは、ダイアモンド氏、ディビック氏、バーナンキ氏が受賞に至った理由を、3人の功績とセットで分かりやすく解説する。実は、受賞理由が書かれたScientific Backgroundを読むと、選考基準がわずかに異なれば清滝信宏氏の受賞もあり得たニアミスぶりだったのだ。今後の受賞可能性も残されているのか、詳細を明かそう。