ぶどうのパッケージも、中国では見られない包装へのこだわり

 包装紙ではないが、商品の包装に商魂をつぎ込んでいる商品はまだまだある。

 インバウンド事業を促進するための山梨県観光懇話会委員をかなり長い期間、務めたことがある。その山梨県を支援するために、妻はふるさと納税で毎年、山梨県の業者のぶどうを選んでいる。

 妻が選んだのは2006年に設立した株式会社ヴァインヤードの「甲斐国物語」ブランドのぶどうだ。届いた商品を開けてみたら、ぶどう棚を写した写真をプリントしたような紙と「自然が教えてくれる葡萄のおいしさ」と題するおいしいぶどうの秘密を教える紙が入っていた。

「3月、葡萄の木を剪定すると、切り口から水がポタポタと流れ落ちます。これは水揚げといい、冬の間に眠っていた葡萄の木が、枝へ栄養分を与えるために土から水分を吸い上げている状態のことです。(中略)自然と向き合いながら、今日も丁寧に。おいしい葡荀は、毎日手をかけることから生まれています」

「おいしいものを、おいしい時にセレクト」と題する案内文では、商品の特質を丁寧に解説し、食べ方も親切に教えてくれる。また、お客さんへの感謝のあいさつやインスタグラムへの投稿の誘いなどの内容を書いた紙も絵はがきもある。

 最後の紙は、「ぶどう果皮のかすり(斑点シミ)、傷について」と題する文章で、商品の問題についての説明をしている。「果皮に斑点しみ、小さな傷が入った粒が混じることがございます」と断った上、「これは、今年の天候による低日照、台風による風の影響により生じたもので、特に熟度が進むと色濃く現れます。味や健康への影響はありません」と説明している。

 自ら商品の問題点と思われるところを進んで説明するその姿勢は好感が持たれる。

 商品の包装もビジネスを展開する上で、欠かせない大事な舞台だという認識において、「宗家 源吉兆庵」とまったく遜色しない。

 和歌や唐詩をツールにして、商品を販売すると同時に、文化の情報発信もしっかりとやる源吉兆庵に対して、甲斐国物語の方は、地域の風土のアピールに力点を置いている。精練さや完成度には差があっても、その目指す地平線には、同じ標高がある。

 市場経済に目覚めてからすでに数十年もたった中国では、商品の包装に競うかのように豪華さを求める風潮がある。書籍のカバーなどを除いて、他国の詩などを包装紙にデザインして販売する商品に出合ったことはない。

 いつか中国の商品も、日本の和歌やシェイクスピアのソネット(十四行詩、Sonnet)などがあしらわれた包装紙に包まれて販売できるようになったら、自国の文化に対する自信は名実ともに確立できたといえよう。