不動産デベロッパーが突然「黒字倒産」、8年で売上高6倍の会社がなぜ?Photo:PIXTA

今回は、09年2月に経営破綻したマンション分譲デベロッパー「日本綜合地所」を取り上げる。8年で売上高6倍と業績は好調、優良企業に見えた同社はなぜ倒産に陥ったのか。その理由を探ると、2つの「落とし穴」が見えてくる。(中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授 矢部謙介)

黒字倒産は
なぜ起こるのか?

 前回の本連載で取り上げたレナウンは、損益計算書(P/L)上の赤字が続き、その結果資金不足に陥って倒産してしまった事例であった(詳細は「名門アパレル・レナウンが『コロナ倒産』と言い切れない根深い理由」を参照)。

 しかし、本連載でも触れてきたように、P/L上の利益は黒字でありながら倒産に至る、「黒字倒産」は決して珍しくない(詳細は「粉飾決算に倒産・・・『危ない会社』を見極めるキャッシュ・フロー計算書の読解術」を参照)。

 東京商工リサーチの調査によれば、2021年に倒産した308社のうち、約39%は倒産直前の決算期で最終損益が黒字だったとされている。実は、21年においてはコロナ禍により多くの企業が利益を確保できずに赤字となったため、黒字倒産の割合は減少傾向にあったが、それでも倒産企業全体の約4割は黒字倒産だったことになる。

 こうした黒字倒産は中小企業だけに限った話ではない。上場企業であっても、黒字倒産の事例は数多く存在する。

 なぜ、黒字倒産は起こるのか。実は、その原因はとても単純だ。

 会社は、P/L上の損益が黒字であろうと赤字であろうと、お金を支払うべきタイミングで支払うことができなければ、倒産してしまう。このような資金不足に陥ってしまった状態のことを、「資金ショート」とも呼ぶ。

 直近におけるP/L上の損益が黒字であったとしても、資金ショートに陥れば、会社は倒産してしまう。これが、黒字倒産のメカニズムだ。

 したがって、P/Lだけをいくら見ていても、黒字倒産の兆候をつかみ取ることはできない。P/L以外の財務諸表もフル活用しなければ、取引や投資において大きな損失をこうむってしまいかねないのだ。

マンションデベロッパー
日本綜合地所のケース

 今回は、黒字倒産のケースとして、マンション分譲事業を手掛けるデベロッパーであった日本綜合地所の事例を取り上げる。

 日本綜合地所は、ヨーロッパ風のデザインのマンションを中心に展開し、マンション分譲事業者としてファミリー向けの需要を獲得してきたが、資金繰りに行き詰まり09年2月5日には会社更生法の適用を申請することになった。

 そのとき、日本綜合地所が抱えていた負債総額(子会社分も含む)は約2142億円で、不動産会社の倒産としては、08年8月に倒産したアーバンコーポレイション(負債総額は約2558億円)に次ぐ規模だった(09年2月10日付日経産業新聞)。

 なぜ、日本綜合地所は倒産してしまったのだろうか?詳しく確認していこう。