インボイス制度とは正確には適格請求書等保存方式であり、「仕入税額控除制度の適用を受けるために、原則として、適格請求書発行事業者から交付を受けた適格請求書又は適格簡易請求書の保存が必要」とされ、そうした「適格請求書等を交付しようとする課税事業者は、あらかじめ適格請求書発行事業者の登録を受ける必要がある」というもの(財務省「令和4年度税制改正の解説」中、「消費税法等の改正」より)。

 つまり、仕入税額控除を受けたいのであれば、適格請求書発行事業者の登録を受けなければいけないということなのだが、この適格請求書発行事業者の登録というのがくせもので、その登録は、なんと課税事業者であることが前提とされている。消費税については、年間の売上高が1000万円以下の事業者については納税義務が免除されている。ところが、適格請求書を発行するためには、納税義務が免除されている事業者であっても、消費税の課税事業者とならなければならないのである(財務省も先に引用した解説において、「免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受ける場合には課税事業者となる必要がある」とはっきりと記載している)。

 課税事業者は、当然のことながら仕入税額控除を受けたいわけであるから、取引先には適格請求書の発行を求めることになる。しかし、免税事業者であれば、その発行ができない。ということになると、免税事業者との取引を避けるようになるか、取引先の免税事業者に発行事業者としての登録をするように求めるか、ということになる。取引を継続したい免税事業者は発行事業者としての登録を受ける、すなわち消費税課税事業者となるという選択肢を選ばなければならなくなる。

 しかし、免税事業者は売上高が1000万円以下の事業者であり、消費税法においても免税事業者については「小規模事業者」と規定されている事業者である。その少ない売り上げの中から10%を徴税されることになるわけであり、売り上げは減少するわけであるから、打撃は少なくない(無論、小規模事業者も仕入税額控除の適用を受けることができるわけであるから、売り上げ全体に対して10%徴税されるわけではないが)。

 そんなことは冗談ではない、あくまでも免税事業者でいようということになれば、適格請求書の発行ができなくなり、当該請求書を求める取引先からは取引を停止させられる可能性も出てくるし、新たな取引を始めようとしても、適格請求書発行事業者ではないことを理由として取引を断られることになるかもしれない。そうなれば、売り上げは減少し、小規模事業者は窮地に立たされることになる。

 つまり、インボイス制度の導入は、「小規模事業者に係る納税義務の免除」の規定、すなわち売上高1000万円以下の事業者の免税規定を事実上空文化させることになるということである。ということは、売上高にかかわらず、事実上全ての事業者が消費税の納税義務者になるということであり、そこに本制度導入にいそしむ財務省の本当の意図があるのではないか。