加えて、適格請求書発行事業者との取引が半ば強制されることにもなりかねず、そうなれば近代法の原則であり、民法にも規定された契約自由の原則に反することになる。

 これほどにこの制度は問題が多いばかりでなく、我が国社会経済に大きな影響、悪影響を及ぼすものなのである(岸田政権はスタートアップを増やそうとしているが創業当初はその多くが小規模事業者であり、そうした事業者の少ない売り上げから消費税を巻き上げようというのは、自らの政策に冷や水を浴びせかけるようなことなのではないか)。

そもそも中身がわかりにくいインボイス制度

 しかし、ここまで拙稿を読まれた読者の中で、こうしたインボイスに関する事実をご存じだった方はどのくらいおられるだろうか?関心の高い方は既にいろいろと調べられたり、勉強されたりしているかもしれないが、多くの方がこうした事実や、自分たちへの影響等についてご存じなかったのではないだろうか。

 その背景としては、「インボイス」というわかりにくい、具体的中身が見えないカタカナ語によって、その実態が誤魔化されてきたことがあるだろう。単にインボイスとだけ聞くと、「ただの請求書でしょ」と思ってしまう人が少なくないようで、筆者もある友人にこの話をしていたときの反応がまさにこれだった。つまりは、こうすることで危機感を持たせない、中身を知らせずにシラーッと導入してしまおうとしてきたということだろう。

 いや、そうはいっても消費税は消費者が負担して、事業者はそれを預かっているだけで、本来国に納めるべきものなのだから、全事業者が納税して当然ではないか、という意見も聞かれるようになっているし、そう考えている国民は少なくないだろう。しかし、これは誤った理解である。消費税の納税義務者はあくまでも事業者であって、消費者ではない。何かモノを購入するときの消費税はあくまでも価格の一部を構成するものでしかなく、消費者が消費税を直接的に払っている、直接的に負担しているわけではない(別の言い方をすれば、消費税分価格が上がっているということである)。

 したがって、かつて言われたような消費者からの「預かり金」ではない。十数年前だったか国税庁は、消費税は消費者からの預かり金であると誤認させる、うそのポスターやCMを作って、そのうそを流布させていたが、国会での指摘や消費税を巡る訴訟での確定判決を受けて、シラッとやめてしまった(だいたい「預かり金」ということであれば事業者が徴税義務者ということになり、国から徴税の業務を任されているということなってしまう。その根拠となるような規定は当然消費税法には見当たらない)。そもそも消費税法第5条には事業者が納税義務者である旨記載されている。

 それにもかかわらず、財務省は「預かり金」といううそを積極的に訂正するようなことはせず、そのまま放置し続けている。国民が勘違いして「俺たちが払った消費税を納めない事業者はとんでもない。インボイス導入で全員払え」という方向に持っていこうとしているかのようだ。極めて悪質な話である。