令和4年度第2次補正予算で
本当に手当てすべきもの

 さて、総合経済対策に基づき編成された令和4年度第2次補正予算案、各府省の予算案をざっと見ると、結論から言えば、やはり今日本の置かれた状況を全く無視したと言っていいような、緊張感や危機感に欠ける内容ばかり。実情を分からない、知らない、知ろうともしない役人がこの機に乗じて入れ込んだようなものまで見られる。そんなことをしている場合ではないはずなのだが、そこまで来ると、実情を知る知らない以前に、官僚の能力の著しい低下が懸念される。

 日本が置かれた現下の状況は、新型コロナショックにより影響を受けた経済はまだ回復していないどころか、コロナ融資の返済のめどが立たずに倒産する件数が増加していくことが懸念されている、加えて円安倒産も想定されている状況。直近の本年7~9月期の四半期GDP成長率(速報値)は、対前期比で実質マイナス0.3%、名目マイナス0.5%であり、年率換算で実質マイナス1.2%、名目マイナス2.0%である。これはエネルギーを代表とする輸入価格の上昇によるところが大きく、民間在庫変動が実質・名目とも対前期比でマイナスであることを考えると消費が旺盛であるようにも思えるが、家計調査の結果を見ると、本年7月、8月の2人以上世帯の消費支出は前月比の実質でいずれもマイナスである。9月に入るとプラスになっているが、9月といえば8月の2431品目に続いて1661品目で値上げが行われた月であり、いよいよ広範囲にわたって値上げの影響が出てきた時期である。

 さらに、ウクライナ紛争に天候不順による国際的な品不足と価格上昇に、日本政府の投資不足(特に港湾施設)も加わって、日本になかなか入ってこない品物があることも民間在庫変動に影響していることも考えられる。

 つまり消費が旺盛なのではなく、少ない在庫の取り合いになっているのではないか、そしてさらに輸入依存が高まり、このような状況になったのではないかということである。別の言い方をすれば、日本は国民の生活必需品に至るまで輸入依存の高さが影響するようになっているということであり、したがってエネルギー原料等の価格の高騰に加えてドル高の影響を受けやすくなっているということであろう。

 であれば、令和4年度第2次補正予算案で手当てすべきは、世帯や事業者向けの電気代、ガス代の支援(価格の上昇分をメルクマールとして)、ガソリン代の支援(元売り向けではなく世帯、事業者向け)、再エネ賦課金の徴収停止、原発再稼働に向けた事業者向けの支援、先にも触れたコロナ融資の返済免除、食料や防衛装備品、経済安全保障に関わる戦略物資である。

 それに加え、より多くの物を国内で生産、調達できるように、国が必要なインフラ等の基盤整備に投資することや、海外の生産拠点の国内回帰のための支援(補助金等)や、生産拠点の立地先の調整、拠点整備の支援といったものが必要であるはずだ。確かに生産拠点の国内回帰支援等の文字は躍っているが、その中身はといえば、例えば経済産業省関係で具体的な対象となっているのは先端半導体のみ。それ以外は、国内回帰とあっても、事業再構築や生産性向上の取り組みを支援するとあり、国内回帰の支援にはなっていない。

 海外で製造する部品等の国内回帰を進めると書いてあっても、それはあくまでも事業再構築の一環であって、国内回帰を最優先に考えているわけではないようだ。それどころか、この世界情勢の変化の中にあって、世界的な景気後退が懸念されている中にあって、グローバルマーケットへの展開を目指すスタートアップを、ベンチャーキャピタルへの出資を通じて支援するのだそうだ。岸田政権ではスタートアップを経済成長のエンジンのように位置付けているのだから、最先端の事業を行うはずのスタートアップを海外に展開させようということ、その部分については国内を空洞化させようということに等しく、本末転倒もはなはだしい。

 なお、スタートアップは経済成長のエンジンなのではなく、その多くは投機の対象でしかない。つまり投機家の金もうけの道具にしかなり得ないものが多いということ。無論、長年の大学等の研究機関への政府等の投資により生まれ、商用化・実用化にまで至った技術等をビジネスする大学等からのスピンアウトとしてのスタートアップ等については成長のエンジンたり得るが(詳しくは、近日中に出版予定の、筆者が解説を執筆した専門書を参照されたい)。

 日本が置かれた現下の状況といえば、我が国を取り巻く国防・安全保障環境の変化もある。中国の勢力拡大は、ウクライナ紛争によってその脅威を増してきており、同国に比して貧弱としか言いようのない自衛隊や海上保安庁の装備の増強は喫緊の課題である。本格的な手当ては令和5年度予算によることとしても、今できる改善は早急にやっておくべきであろう。しかし、2次補正の防衛省としての計上額は4464億円であり、うち2924億円が在日米軍の再編関係費である。この危機的状況に対して総額が少ないだけでなく、自国の安全は自国で守るのが当然であるところ、この期に及んでまだ米軍依存かとあきれ返る。本来やるべきは、防衛装備品の国内生産の強化のための投資、優先順位の高い装備品の国内調達、さらに、老朽化した施設の更新等であるはずである。しかし施設については、更新ではなく改善のための費用が77億円計上されているだけである。

 岸田首相の外遊の影響で、審議は11月下旬に衆参それぞれ3日ずつ確保されているだけである。スキャンダル追及が大好きな体制に変わった立憲民主党は予算本体とは無関係な質問を連発してくるであろうから、具体的な中身の議論を是々非々でできるのは国民民主党ぐらいだろう(れいわ新選組も行うかもしれないが、議席数が少ない上に質問時間も少ないので相当ポイントを絞った質疑にならざるを得ないだろう)。そうなれば、この危機感なき補正予算案はスーッと成立してしまうことになりかねない。理想的には予算の組み替えを実現してほしいところであるが、せめて良識ある与野党議員諸氏、そして有権者の皆さんには、危機感とこの予算案の問題点を認識してほしいものである。