日本電産の脅威の成長を支えてきた”永守流”のM&A(合併・買収)に異変が起きている。永守重信会長は、1990年代に不振企業の再建型M&Aで名を馳せてきたが、2010年代に海外の優良企業の巨額買収を次々に仕掛け、グローバル企業への転換を進めてきた。だがここにきて、それが一転、中小規模の工作機械メーカーを立て続けに買収する再建型のM&Aスタイルに回帰している。すでに、永守氏自身が赤字会社に乗り込んでたちまち劇的な黒字転換を実現しているが、果たして90年代の「成功メソッド」を貫く永守流は今もなお有効なのか。特集『日本電産 永守帝国の自壊』(全7回)の#5では、永守流M&Aの死角に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令ニ)
永守会長が手ごたえをつかんだ
「久方ぶり」の再建型M&A
「久しぶりにPMI(買収会社の統合作業)をやらせてもらって、非常に早い(経営の)改善をすることができた」。
日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)が手ごたえを感じているのは、2021年8月に買収を完了した旧三菱重工工作機械(現・日本電産マシンツール)の経営再建だ。
永守氏自らが滋賀県県栗東市の本社を訪問。経費や資材調達費の費用を徹底的に削減する “日本電産流”のコスト意識を元三菱重工社員たちに植え付けた。その効果はてきめんで、直前まで18カ月連続で赤字だった月次決算が9月には黒字化し、同年12月には売上高利益率が12%まで改善したという。
22年2月には、過去の不適切会計で経営不振に陥っていた工作機械メーカーのOKK(現・ニデックオーケーケー)の買収を完了している。永守氏は同社の経営にも直接関与し、同年4~6月期に4期ぶりの最終黒字に浮上させた。
そして3社目の工作機械メーカーの買収となったのが、イタリアの工作機械メーカー、PAMAだ。
「工作機械メーカーは非常に低い利益率に甘んじてきた業界。われわれがやるともっと儲かる」。
このように永守氏は自信を深めているのには根拠がある。工作機械業界は、売り上げ規模が小さな企業が乱立しながら、複雑な産業構造で長く再編が進まなかった。
そうした業界特有の“隙”をチャンスとみて、わずか1年超で3社の買収を完了した永守氏の手腕は健在だ。すでに、日本電産の新事業として事業拡大する方針を明確にしている。
実は、永守氏が最も得意とするM&Aは、こうした中小規模の不振企業の経営再建だ。今後もM&Aのターゲットは、中小の工作機械メーカーが中心になるのは間違いない。
一方で、日本電産が注力するのが「車載」と「家電・産業・商業」の二大事業だ。こうした中で、永守氏が工作機械メーカーに執着するのはなぜなのか。次ページでは、過去のM&Aの変遷や日本電産が置かれた経営課題を基に、その理由を明らかにする。