日本電産 永守帝国の自壊#4Photo:Bloomeberg/gettyimages

日本電産の永守重信会長が希代の名経営者であることは間違いない。だが、その存在が大きすぎるが故に、取締役会や取引先金融機関などのステークホルダーは萎縮し、カリスマ経営者の暴走に待ったをかけられない状態が続いている。そんな日本電産において、経営のモニタリング機能を果たす最後のとりでとなるのは「株主」なのかもしれない。ダイヤモンド編集部は日本電産の大株主70社(個人を含む)をリストアップした。特集『日本電産 永守帝国の自壊』(全7回)の#4では、門外不出の「株主リスト」を初公開する。果たして、株主に永守氏の暴走を止める大役が務まるのだろうか。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

突如として「指名委員会」設置を表明
取締役会が形骸化

 11月5日、日本電産は取締役会の諮問機関として「指名委員会」を設置した。その狙いは、取締役や執行役員の選任プロセスに独立社外取締役という“外部のオープンな視点”を入れることで、幹部選出における「公正性・透明性・客観性」を担保することにあるという。

 確かにこれまで幹部人事の昇格・降格は全て永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)による鶴の一声で決められてきた。信賞必罰が徹底されており、事業の責任者がコロコロ変わる。役員・部長級以上の人事異動が毎月のように発動され、そのたびに業績の芳しくない組織の長のクビがすげ替えられるのだ。この人事異動発令の頻繁さは異様なレベルである。

 それでも、この“朝令暮改”人事によりこまめに戦略が軌道修正され、社員に成果と納得感がもたらされているうちは良かった。潮目が変わったのは、9月に前社長の関潤氏が実質的に解任されたあたりである。

 経営の中枢にいた幹部人材の流出が相次いだことで、鉄壁を誇った永守神話に陰りが見られるようになった。1973年の創業以来、永守氏が示す独自の世界観と経営哲学をよりどころに、社員は一丸となって日本電産の躍進に貢献してきた。だが最近では、幹部のみならず、永守氏の求心力の衰えを肌で感じた若手社員でも社を去る事例が出てきているという。

 永守氏は「創業時から培ってきた文化を取り戻す」と繰り返し発言しているが、心が離れ始めた社員を繋ぎ止めることは難しいかもしれない。

 社員、取引先、金融機関、株主――。従来、あらゆるステイクホルダー(利害関係者)は永守氏が提唱する道を信じ、追走すれば良かった。永守氏の言葉は”絶対”なのだから、経営をモニタリングする必要性などなかったのだ。

 そのため、日本電産には経営者の暴走を止める仕組みである「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」がほとんど機能していない。

 取締役会メンバーは官僚と大学教授の出身者しかおらず、ビジネス経験のある人材は皆無だ。だから悪いと決めつけるわけではないが、永守氏の一存で代表権を持つ社長が実質的に解任できるような企業である。永守氏がこれまで下した意思決定に対して、一度でも「ノー」を突きつけた社外取締役がいるのだろうか。

 冒頭の指名委員会を設置したところで、そのメンバーは従来の社外取締役メンバーから選出される。それに永守氏、その忠臣である小部博志社長が加わったところで、幹部選出のプロセスに「公明性・透明性・客観性」が得られるのかどうかは甚だ疑問だ。

 そうした意味で、取締役会に替わって経営の監視機能を果たすことができる頼みの綱は、「株主」である。そこで、ダイヤモンド編集部は日本電産の大株主70社(個人を含む)をリストアップした。

 次ページでは、門外不出の「大株主70社リスト」を初公開する。果たして、日本電産の株主に永守氏の暴走を止める大役が務まるのだろうか。