日本電産 永守帝国の自壊#1Photo:Bloomeberg/gettyimages

「一番以外は全部ビリ」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」――。日本電産社内では永守重信会長の言葉は“憲法”だ。希代のカリスマ経営者の経営哲学や教えが社員のよりどころとなってきたことは間違いない。しかし組織が大きくなるにつれて、側近社員が絶対君主の“一挙手一投足”を先取りし忖度するようになった。そうして生まれたのが、人事部が中途社員向けの指南書として作成した「永守会長の取り扱いマニュアル」である。ダイヤモンド編集部ではこの資料を独自入手した。特集『日本電産 永守帝国の自壊』(全7回)の#1では、忖度の極みとも言えるビジネスマナーや異常な労働実態を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

日本電産“忖度文化”の極み
人事部作成「永守会長対応マニュアル」

「永守会長へは最高の敬意を込めて対応すること」

「永守会長に『さん』付けは厳禁」

「疲れ知らずの永守会長に『お疲れさまです』と言ってはならない」

 日本電産の内部で、永守重信会長に社員が対応する際の作法を説く手引書を作成していたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。日本電産の人事部が作成したもので、毎年大量に入社する中途社員に向けたオリエンテーションで使われたという。

 その内容は、永守氏に対する呼称、あいさつの方法、社内で出会った際の立ち振る舞い、電話やメールの受け方、食事会での作法まで多岐にわたり、異様なまでに細かなルールがある。

 1973年の創業以降、ハードワークの社風を築いた永守氏。独自の経営哲学で競合企業の追随を許さない圧倒的スピード経営を実践してきたが、時に社員を罵倒する強烈な言動には批判もある。

 永守氏は「叱られた社員は私に感謝する。これがパワハラというなら会社はここまで成長していない」と意に介さない様子だが、社員に過度な圧力を掛ける企業風土は、永守氏個人にとどまらず、同氏を取り巻く側近らが組織的に醸成した面もありそうだ。

 ダイヤモンド編集部では、日本電産の人事部が作成した「永守会長対応マニュアル」を独自に入手した。次ページでは、その内部資料を公開する。中身は時代錯誤のビジネスマナーのオンパレード。社員に過度な負担を強いて人材を疲弊させる異様な企業風土が明らかになった。