2030年度に売上高10兆円――。日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)が掲げる壮大な構想に暗雲が垂れ込めている。もともとは社員に「夢を持たせる」ために掲げられた目標だったが、足元では、これを達成するために「25年度に売上高4兆円」という実現不可能といえる計画が進行中だ。特集『京都企業の血脈』(全18回)の#11では、「10兆円計画」に漂うハードルの正体に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
車載・家電事業が鍵を握る
永守会長掲げる「10兆円計画」
米国ミズーリ州東部のセントルイス。米国の電機大手エマソン・エレクトリックの本社の広大な敷地に隣接する一角に、日本電産の家電・商業・産業用モーターを担う「ACIM(エーシム)」と呼ばれる事業の本拠地がある。
日本電産が2010年に米エマソンからモーター事業を買収したのをきっかけに開設した拠点で、17年度には同じくエマソンから産業用モーターや発電機の事業を買収し事業規模が拡大した。
ここに勤務する日本人幹部にとって、金曜日夜は緊張がピークに高まる時間だ。
「わしの会社をつぶすつもりか!」
静まり返ったオフィスの中で、京都本社と結んだWEB会議で、永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)の怒号が飛ぶからだ。
日本電産にとって平日は顧客を訪問するために使う時間である。そのため、社内向けの幹部会議は土曜日午前に行われているが、その時間はセントルイスでは金曜日の夜。ACIM幹部は会議が終われば、米国でも屈指の治安の悪さで知られるセントルイスの町中を自動車で帰宅することになる。
このACIMこそ、いまや日本電産で最大規模の事業だ。電気自動車(EV)向け駆動モーターシステム「電動アクスル」の受注拡大を目指す車載事業とともに、永守氏が掲げる「売上高10兆円」達成の鍵を握っている。
果たしてこの2大事業は、永守氏の思惑通りに事業を拡大することができるのか。次ページでは、それを阻むハードルの正体に迫る。