日本電産永守流「V字復活神話」崩壊の危機!キャッシュ&在庫が物語る“利益倍増術”の限界Photo:bloomberg/getttyimages

日本電産の高収益に陰りが見えている。過去の高い利益の源泉は、競合にはまねのできないレベルの圧倒的なコスト削減力にあった。永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)の号令で、社内は実現不可能な高い目標にまい進し、リーマンショックをはじめとする危機の局面では、強力なコスト削減プログラムを通じて意欲的な利益増を実現してきた。ところが近年、そうした永守流の“利益倍増術”に衰えが見えてきている。特集『日本電産 永守帝国の自壊』(全7回)の最終回では、「V字復活神話」が崩れた理由をキャッシュフローと在庫の推移など財務分析により徹底解説する。(ダイヤモンド編集部 村井令ニ、副編集長浅島亮子)

「10%以下は利益ではない」
幹部追い詰める永守氏の圧力

「四半期の決算が閉まるたび、どこかに回収できる債権はないかと血眼で探した。だが、それもいつか限界が来て、気付けば翌期に回せるコストや前倒しで計上できる売り上げがないかと考えるようになっていた」

 日本電産で事業部門の財務管理の担当経験がある元幹部社員は、そんな“危うい”証言をする。

 ビジネスの売り上げや経費の計上を操作するのは不適切な会計処理の温床につながりかねないので、ご法度である。もちろんこの元幹部は思いとどまったのだが、「それほど追い詰められていた。そんな自分が恐ろしくなった」と当時の荒んだ精神状態について吐露する。

 日本電産の永守重信会長兼CEOによる業績達成へのプレッシャーはそれほどまでに強烈だ。毎週日曜日の「週報システム(事業部門ごとに業績を永守氏に報告する)」に心が折れて会社を去った幹部も多い。

「10%以下の利益率なら、そんなものは“利益”ではない」

 永守氏が、ここまで言い切るのは、自ら創業期に手掛けた精密小型モーター事業の利益率が20%超をたたき出した実績があるからだ。

 パソコン市場の拡大とともにハードディスクドライブ(HDD)用のモーターに商機を見いだし、新製品開発と価格競争で競合を蹴落としてきた。時に、競合相手を買収する荒技まで駆使して圧倒的なシェアを確保することで、異常なまでに高い利益率を出してきた。

 だが、HDD用モーターに代わって新たな成長領域に位置付けた「車載用モーター」と「家電・商業・産業用モーター」の二大事業は、営業利益率が10%の水準を割り込んだまま低迷している。

 永守氏が二大事業に課してきたミッションはシンプルだ。「精密小型モーターが出した20%を目指すべきだ。まずは15%を目標にせよ」と問い続けてきたが、二大事業の低調が足を引っ張って、連結営業利益までも4期連続で10%を割り込んだ。HDD用モーターの成功体験は、もはや“過去の栄光”にすぎない。

 そして近年――。永守流の「V字復活神話」はついに崩壊の危機にある。過度なプレッシャーをかける永守氏と、それに追い詰められる幹部。次第に両者の溝が深まり、日本電産の現場にきしみが生じ始めている。その「きしみ」の実態を雄弁に物語っているのが財務データである。

次ページでは「V字復活神話」が崩壊危機に瀕している理由をキャッシュフローと在庫の推移など財務分析により徹底解説する。