新電力 節電地獄#3Photo by Masataka Tsuchimoto

ソフトバンク傘下の新電力大手SBパワーは家庭向け節電プログラムのパイオニアである。元東京電力の超エリート幹部で業界の重鎮、中野明彦社長が、大淘汰時代の新電力業界に警鐘を鳴らす。特集『新電力 節電地獄』(全11回)の#3では、中野氏が節電プログラムの成否を握る「極意」を明かす。(聞き手/ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

SBパワーは契約者の約半数の
「100万世帯」が節電策に参加

――家庭や企業に節電を促す国の節電プログラムに、電力会社(大手電力と新電力)の約4割に当たる約300社が申請しました。

 まずは節電の構えができました。これは国や自治体にリードしてもらったことが大きい。低圧、いわゆる家庭用では参加登録をするだけで2000円というそれなりの金額が与えられます。これは、一事業者だけでできる話ではありません。電気料金が上がるなどいろいろな報道がある中で、節電・節約がこれまで以上に意識された結果ではないでしょうか。

――実際にどれだけ電力使用者が節電プログラムに参加表明し、その上で節電を実行するかが鍵となります(ダイヤモンド編集部注:節電プログラムには(1)月間型〈前年同月比で電力使用量3%削減だとOK〉と、(2)指定時型〈電力会社が要請した時間帯に前数日間の平均使用量と比較して削減できていたらOK〉があり、SBパワーが従来独自にしていたのは(2)。専門用語でデマンドレスポンス〈DR〉)。

 われわれは2020年から独自の節電プログラムに取り組んできました。どうすれば参加してくれるのか、どうすれば実効性が上がるのかなど、試行錯誤を繰り返してきました。そして今、SBパワーの節電アプリ登録者のうち、常時3分の1の利用者に節電をしてもらっています。これはわれわれからすれば非常に大きな数字です。この冬だと約100万世帯にエントリーしてもらっているので、経験的に33万世帯ぐらいには節電に取り組んでもらえると思います。

 実効性を上げるためにいろいろな工夫をしています。スマートフォンのアプリでタイミングよくプッシュ通知し、節電に成功したかどうかをその日の夜のうちに判定。成功した場合は翌日すぐにPayPayポイントを付与します。それによって、利用者は節電を習慣化できますし、節電を実感してもらえます。翌日に再び節電を要請しても、ほぼ参加してもらえるのです。

 一方で、この冬から節電プログラムを始める電力会社が、今申し上げたようなことを実現できるのかどうか。

次ページでは、中野氏が自社独自の節電プログラムでの経験を基に、単なるポイント付与だけでは、電力各社が今冬取り組む節電プログラムの成果は乏しくなると指摘。新電力各社に「節電策には勉強代が伴う」と覚悟を促す。また、東京電力(現東京電力ホールディングス)出身で業界の重鎮でもある立場から、今冬の電力危機の原因を解説。その上で、危機を乗り越えるために電力小売事業者や政府が取り組むべき方策についても語った。