「あとはやっておくよ」

 何度も部下とやりとりしていると、つい仕事を巻き取ってしまうプレイングマネジャーは少なくありません。自分自身が忙しいにもかかわらず、です。

 なぜかというと、「そのほうが早く片付くから」だと言います。部下にあまり無理はさせたくないし、部署の労働時間を圧縮しないといけないという事情もあるでしょう。

 私はよく管理職の方に、「メンバーのポテンシャルを何%発揮させられていますか?」と質問します。すると多くの方が20~80%の幅で答えます。部下がやり切れない部分を、自分で補ってなんとか「やりくり」しているのです。

 しかし実は、これが部下の不満になっていることがあります。「自分はダメなんだ」と感じたり、「成長できない」と感じたりするからです。任せてもらえない、つまり信用されていないという事実に、ひどくネガティブになってしまうのです。上司が自分でなんとかできる「強いボス」であるがゆえに、相対的に部下の活躍や成長の機会が少なくなっているとみることもできるでしょう。

 仕事は見て覚えろ、自分で考えて仕事を見つけろ…と言いたくなるかもしれませんが、そのようなやり方になじまない人も増えていることは否めません。

 今の働き手は、組織の中で「何者かでありたい」と思い、承認されることを求めています。私の会社の俗に言うZ世代に当たる新入社員が、こんなことを言っていました。

「指導的なフィードバックをください。けれど同時に褒めるフィードバックもください」

 堂々と言ってのけるのでビックリしましたが、学んで戦力になりたいという意欲は伝わります。また、彼らが育ってきたのは、叱られるのではなく、承認されながら成長していく環境であることが垣間見えた発言でした。

 では具体的にどうすればいいかというと、任せる部分を広げることです。

「それができたらとっくにやっている」という声が聞こえてきそうですが、他人に何かを任せるときには、思い通りの結果にならないリスクが伴って当然です。それが人的資本への「投資」でもあります。

 ですから絶対にミスが許されない部分にはヘッジをかけておき、リスクを許容できる部分は思い切って任せる。その線引きをはっきりさせておくと、上司も気が楽です。

 上司より部下が優れている部分も必ずあります。ITの知識やSNSの使い方などは典型的です。

 たとえば、

「提案資料の内容はちゃんとチェックするけど、デザインの見せ方はあまり得意じゃないから、君に任せるよ」

 こんなふうに頼めば、ネットの情報やテンプレートを駆使して、自分なりに良いものを作ってくれるかもしれません。

 そして、

「確かにこのほうがわかりやすいね。でもここは…」

 と指導と褒めをセットでフィードバックする。そんなコミュニケーションが人を育て、生かすことにつながります。