日本銀行が保有する国債で8749億円の含み損が生じたことがニュースになった。しかし、この件で騒ぐ人は重要な点を見落としている。日銀が国債で含み損を抱える状況は何ら問題ではない。債券の含み損という意味では、日銀よりも心配になるのは地方銀行などの民間銀行の方だ。(経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員 山崎 元)
日銀の国債評価損を
「歓迎」する!?
日本銀行が11月28日に発表した2022年4~9月期の決算で、保有する国債の時価から簿価を差し引いた含み損益が8749億円の含み損となったことが発表された。
筆者は当初、本記事のタイトルを「日銀の保有国債含み損発生を歓迎する!」としようかと思った。含み損が発生する状況の意味をよく考えるとそれで構わないのだが、これは「あおりすぎ」だと思ってやめることにした。
昨今、日銀の金融政策を巡る賛否にはいささか感情的な表現がつきまとうことが多い。日銀の一連の大規模な金融緩和政策については、これを正当化したい人(筆者自身はこちらに属する)と失敗だったと決めつけたい人の2種類がいて、時に議論が冷静にならない。実際には、「金融緩和は有効だったし必要だったが、弊害もあり、また政策としての成否は金融緩和単独では評価できない」という辺りが妥当なのだろう。
さて、「歓迎」の意図を説明しよう。
仮に、日銀の金融政策が奏功してインフレ目標が十分達成されたとしよう。何が起こるだろうか。当然のことながら自然に形成される長期金利は上昇しやすい。また、インフレ率が十分に高まったと判断すると、日銀も政策金利を引き上げておかしくない。後者の場合、超過準備(法定準備預金を超えて日銀に預けている当座預金)に付利するといいが、その場合に長期金利は一層上昇するだろう。これらは、政策目標が達成された場合に起こり得る自然な推移だ。