“宇宙”の視点を
自分の中に持つ
野口さんは21年12月に、東京大学先端科学技術研究センターの特任教授に着任。現在は「宇宙で暮らすことがヒトの内面にどのような変化をもたらすか」という当事者研究に従事している。さらに、これまでの宇宙飛行士としての経験を生かして、宇宙関連事業への助言や、人材育成教育にも活動の範囲を広げていく予定だ。
1965年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。2005年、スペースシャトル「ディスカバリー号」による国際宇宙ステーション(ISS)組み立てミッションに参加。09年。ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗、ISSに約5カ月半滞在。20年、米国人以外で初めてクルードラゴン初号機に搭乗、ISSに166日間滞在、船外活動や「きぼう」日本実験棟におけるさまざまなミッションを実施した。写真提供:野口聡一
ちなみに当事者研究とは、宇宙に行って外から地球を見たという経験が、自分をどう変えたのか。また宇宙からの帰還後、一種の“燃え尽き症候群”に陥った人生をどう立て直していくか。そうしたテーマについて、専門家と一緒になって研究していく試みだ。
テーマの追究はこれからだが、野口さんは宇宙に行ったことで、ある洞察が生まれたという。それは、自分が「小さなアリ」になったつもりで考えるという姿勢だ。
直線にしか動けない“1次元アリ”は前に小石があると動けなくなる。前後左右の2次元空間しか動けない“2次元アリ”は、目の前に壁があるとそれを越えることができない。しかし壁の上に登るという勇気を持った“3次元”アリは、その壁を乗り越えて、新たな風景を見ることができる。つまり、今直面している問題は、「別の次元」から見ると、突破口が見つかることがある。行き詰まったら、別の視点から見ればよいのだ。
「1次元より2次元、2次元より3次元と、視点を一つ高い次元に置くと、必ず新しい解決策が見つかります。新しい“宇宙”に飛び込む勇気を持てば、必ず新たな気の合う仲間や、面白くて夢中になれるものに出合える。“宇宙”という別の次元を意識することで、違う見方や考え方ができる。今から社会に出ていく若者たちには、そんな“宇宙”の視点を自分の中に持ってほしいと思います」