さて、11月22日、その結果を取りまとめた「『国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議』報告書」が岸田首相に手交された。その内容は、我が国が置かれた状況に対する危機感や緊張感に欠けた、とても我が国の防衛力の強化にはつながらないような内容である。
平時が前提としか思えない発想が散見される内容に
例えば、最初の「防衛力の抜本的強化」のところで、防衛省の掲げる抜本的強化の方向性に続けて、我が国として優先的にどの分野を強化するべきかを考えるについて、同盟国等とのシナジー効果も考慮するとしている。そもそも、最初から他国軍とのシナジー、つまり相乗効果を前提に自国の防衛力の強化を考えるというのは、半ば他国頼みで考えているのと同じであり、国防を本気で考えていない姿勢の表れである。
防衛産業育成・強化については、経済産業政策や農業政策等と同様の輸出依存思考に陥っている。防衛装備品という特殊な製品は簡単に売れるものではない。防衛産業という特殊産業を担う企業からすれば、輸出依存の場合、海外で売れなければ投資が回収できないところ、売れるかどうかこの段階で分からないというのであれば、投資などできないだろう。アメリカ等と同様に、国が安定的に調達する、つまり国が防衛産業に係る需要を創出することが必須であり、だからこそ巨額の投資が回収できるし、1単位当たりのコストも下がるのである。
同報告書では自衛官の処遇改善にも言及している。これは総論としてはいいことである。ただし、退役自衛官の活用を記載する一方で、現役自衛官の増員を書かないというのは、平時の思考かつ既存の兵力で対処するという観点からのものであり、やはり本気で国防を考えていない証拠であるといえる。
防衛力に関して、「規模ありきではなく、優先順位づけ、実現・執行可能性のチェック」うんぬんといった平時の公共事業、しかも緊縮思考での公共事業の締め付けと同じ発想で臨もうとしていることからもそのことは明らかである。これでは貧国弱兵が進むだけである。
「縦割りを打破した総合的な防衛体制の強化」と題した部分で、冒頭から「『自衛隊だけでは国は守れない』ということも肝に銘じ」としている。これも緊縮ありきで国防を考えようという発想であり、貧国弱兵の発想である。「自衛隊だけで国を守る」ということが基本としてあって、その上で現行制度の不備を補完する形で海保等との連携を図っていくというのが当然であり、そうであれば聞こえがいい「縦割りの打破」などと書くべきでない。領域警備法の整備や、軍隊として組織されることや、軍隊として機能することを前提としていない海上保安庁法の関係規定の改正等により、海上保安庁と海上自衛隊の緊密な連携を実現する。それとともに、海上保安庁についても大幅に体制・装備を強化することとするのが妥当であろう。確かに、同報告書にはその旨も記載されているが、その趣旨は、それによって海自の強化を代替しようというものに他ならないだろう。
サイバーに関しては民間企業まで登場する。現状における実態を踏まえてということなのだろうが、それは平時の発想である。有事になったら国が企業やその職員を強制的に国防のために徴用する仕組みでも創設するとでも言うのだろうか。官民の連携体制という表現は出てくるが、有事にはそれでは対応できまい。国が強制的に徴用ということになればその対価を支払うなり補償しなければならない。それをしたくないから、要するに有事の対応をやる気がないから、「連携」という言葉で誤魔化しているのではないか。
具体的な仕組みに関して、研究開発については、防衛省の意見を踏まえた研究開発ニーズと各省が有する技術シーズをマッチングさせる政府横断的な枠組みを構築するのだそうだが、防衛関係の研究開発は長い年月を要し、かつその技術や研究の成果がいつ、どのような形で生きてくるのかが分からない。したがって、日常的な基礎研究が重要ということであるが、橋本行革以降、小泉・竹中改革を通じて基礎研究の現場である大学や研究機関を、独法化と運営費交付金の削減、そして短期的な競争的資金の導入により疲弊させてきた。そうなるとシーズといえるような技術がどこまであるのだろうか。各省が所管する民間企業の有する技術シーズということなのであれば、防衛省の研究開発ニーズに見合うものを見つけるのはなおさら困難なのではないか(そもそもニーズとシーズのマッチングというのは、商用の製品開発の発想である)。