無知くん:じゃあ、学ぶことに振り向けたなけなしのモチベーションを餌食にする、ハウツーを押し付ける勉強本はやりがい搾取ですか? でも勉強のハウツー書がたくさん出版されるのは、それだけのニーズがあるからでしょ?

親父さん:自分が勉強できない本当の理由なんて誰も知りたくないからだろう。「ひょっとしてやり方が悪いかも」と信じさせておけば、傷も浅くて済むし、何より新しい勉強本がまた売れる。もっとも本当にハウツーを提供しているならまだましで、書店に並ぶ学習法ものや勉強法本は、成功した著者の自慢話か、そうでないなら、レジ近くに平積みされた健康法本と同じだ。つまり、一方では「あなたのやり方・努力は間違ってる!」と脅し付け、もう一方では「◯◯だけすればいい」と安易な道へそそのかす。その先には著者が主催する高額なセミナーなんかが待ち構えているという仕掛けだな。面倒くささから逃げたい連中に、言い訳を提供することで金をむしり取ってるんだ。

無知くん:「身も蓋も」どころか、立っている地面までなくなりそうです。では、本物のハウツーを教えてください。……あれ、もっと重要なことがあるんでしたっけ? すぐに忘れてしまうので、大事なことは二度言ってください。

親父さん:どれほど効果があるやり方も、持続可能でなければ何の意味もない。またろくでもないものを効率的に学んでも、余計害があるだけだ。つまり影響の大きさで言えば、「どのように学ぶか」よりも「何を学ぶか」が大事だし、「何を学ぶか」よりも「学び続けるか否か」の方が重大だという話だ。
だから、この本も、そういう順番で書いてある。

序文
学ぶことをあきらめられなかったすべての人へ

 独学者とは、学ぶ機会も条件も与えられないうちに、自ら学びの中に飛び込む人である。

 例えば、あなたが小学生で学校では教えてくれない三角関数について知りたいと思ったら、あるいは引退を迎えたのを機にかつて断念した研究を再開しようと決意したなら、あるいは困難の壁に何度もぶちあたり今の自分の力では乗り越えられないと思い知ったなら、自分のバカさ加減
に悔し涙を浮かべ「変わりたい」と心の底から願ったなら、その時はもう人は学びの中にいる。

 機会も条件も整わないのに取り組もうというのだから、独学者の行く道はいつも平坦なものではない。

 時に無理解の逆風にあおられ、時に時間や資金や学習リソースの不足という壁に行く手を立ち塞がれるかもしれない。何から手をつけたらよいかわからず途方に暮れ、あるいはろくでもないアドバイスに迷わされ混乱に陥るかもしれない。

 本書は、そうした独学者を支え援護するために書かれた。

2020年9月 読書猿

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