自由度を広げ長い目で見る

梶取 種まきしかないですよね。われわれが種をまいて、それを拾うかどうかは生徒次第。自分に合ったものを拾い、育てていく。男子に比べて女子の集団力の強さを感じます。あと、生徒は絵がうまい。私もスライドをつくってプレゼンを行いますが、恥ずかしくて自分の描いた絵を見せられません(笑)。発想が素晴らしい。アニメが出てくるあの技を学びたい。

――女子生徒は気が利いています。いろいろな学校の説明会をお手伝いしていますが、学校説明会でも、女子中学生が機転を利かせて行動し、いいプレゼンをしている姿をよく見かけます。恵泉女学園創立者である河井道さんを描いた『らんたん』でも出てきますが、女子校にはシスターフッドのようなヨコでつながり力も育まれる環境があると思います。

 NPO学校支援協議会の主催で、2022年6月にシンポジウムを行いました。先日、NHKのEテレでも放映され、それを見た人から大きな反響がありました。学校教育は曲がり角にあり、先生の役割は変わっていくという感想が印象的でした。その点はいかがでしょう。

鵜崎 これまで対面重視で行ってきたので、ICTには遅れましたが、コロナで導入することになりました。Wi-FiやiPadを入れても、本質は変わらない。安心して新しいことに挑戦していいと安心しました。

 生徒の様子を見ていると、素晴らしい感性を持っています。内容や形は変化していきますが、中心にある部分は変わりません。言葉に表せないような空気や雰囲気、理念などを引き継いでいくことが私たちには課されています。

梶取 おっしゃる通り、本質は変わりません。世の中の流れが速いと、どうしてもそこに目が行きます。伝統とはウナギのタレみたいなもの。その店の味のようなものが、どこの学校にもあります。それを捨ててしまうと、上っ面の改革になってしまいます。

 本質は見失わずに、でも「昔はこうやっていた」は通用しません。探すことに意味があり。私も答えは持っていません。不透明な世の中が不安だとは私は思いません。先が見えないということは何でもありですから、それを生徒と一緒に楽しめたら幸せですね。

――低成長の時代に育ち、希望を見いだしづらい世の中に生きている若者に、明るい未来の話を聞きたいなと思います。

梶取 まず、教員が授業を楽しめること、生徒が好きということが大原則になります。オタクは悪い意味で捉えられますが、ノーベル賞の受賞者はみんな究極のオタクです。かつて利根川進さんは「私がノーベル賞を受賞できたのは運が良かったから。私と同等かそれ以上の研究をしていた人はたくさんいた」と。好きなことに打ち込めた受賞していない人も素晴らしいと思います。

 教育というのはどうしても型にはめ込みがちになります。子どもがYouTubeばっかり見ている、ライトノベルばかり読んでいる。そういうときはダメとは言わず、極めればいいと思います。ここから先はやめておこうというものをできるだけ広く取っておきたい。

――武蔵の生徒さんたちは、オタクを極めていると思っています。

梶取 私の印象なので間違っているかもしれませんが、武蔵でさえも世の中の流れに逆らえなくなっている気がします。「武蔵が時代を変える」くらいのリーダーシップを取ってほしいですね。

 武蔵は「自調自考」で素晴らしい学校ですね、と言われるのですが、少なくとも中1や中2では普通の男の子です。それがどうして育つかというと、あんまり邪魔をしないからです。大人から見て「愚かなこと」も止めません。そういう発想をする子がいることが大切です。6年間で育たなくてもいい。教育は長い目で見ていてあげたいですね。