アップルがiPhoneをインドで生産、それでも「中国の代わり」になれない理由Photo:123RF

半導体製造に
本格参入するインド

 インド屈指の財閥系コングロマリット企業であるタタ・グループは2022年12月、今後数年以内に半導体製造に乗り出して、インド内で半導体サプライチェーンを構築すると発表した。

 タタの主力産業は自動車やIT、製鉄などであるが、特に自動車部門のタタ・モーターズは名門のジャガー・ランドローバーを傘下に収めており、多様なラインナップを持ち、中古車にも強みを持っている。ただ、ガソリン車ではこれまで先行してきたマルチ・スズキに大きく水をあけられており、EVなどの次世代自動車でなんとか先行しようとしている最中だ。

 コロナ禍で起こった半導体不足で赤字を続けており、その教訓から半導体を安定的に調達することが大きな課題になっている。

 インドはもともとIT分野で傑出した人材を数多く輩出しており、ソフトウェアに関して強みを持っているので、自動車事業ではEVにとどまらず、半導体が大量に必要な自動運転を見据えている。

 だが、現在は半導体の多くを輸入に頼っている。そのため、まずはインド政府と共同で半導体製造に乗り出して安定供給を実現し、ゆくゆくは製造業における「世界の工場」の地位を中国から奪取する算段なのだろう。

 タタは数年以内に半導体チップの後工程(仕上げ工程)の参入を目指しており、さらに将来的には回路作り(前工程)を担うつもりだ。この野心を実現するために、向こう5年で900億ドル(約12兆2000億円)もの巨額投資を計画する。

 もちろん、インドの半導体製造はまだ未成熟であり、ライバル国である中国からは大きく後れを取っている。そこで、日本のルネサスエレクトロニクスなどと設計・開発で協力して、一気にこれまでの後れを解消するつもりだ。

 先端半導体の量産には1兆円単位の巨額投資が必要であり、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)にせよ、韓国のサムスンにせよ、政府のバックアップが必要不可欠になっている。インド政府の支援の下、タタが半導体製造に乗り出すことは、中国とのデカップリング(分断)を図ろうとしている企業が急速に増えている中で、まさに時宜を得た政策であるといえる。